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日下部の相談室3

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日下部の相談室3

6 - 第6話 “嫌じゃない”で続いてる関係

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2026年02月13日

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相談室の窓は少しだけ開いていた。

風でカーテンが動くたび、机の上の紙が揺れる。


ノックはなく、ドアが細く開いた。


「失礼します」

「どうぞ」


日下部は顔を上げる。

入ってきた生徒は、いつもの席に迷いなく座った。


「今日は何」

「……特に大きいことじゃないです」

「だいたいそう言う」


淡々と返される。

少し間があって、相談者は言う。


「友達、いるんですけど」

「うん」

「別に嫌じゃないんです」


そこで止まる。


「でも、楽しいかって言われると」


言葉が浮かばない。


「……分からない」


日下部は腕を組まない。

机に手を置いたまま聞く。


「会ってるとき」

「はい」

「気は楽?」

「楽ではあります」

「無理はしてない」

「してないです」


そこまで確認して、日下部は言う。


「じゃあ問題なさそうだけど」

「そうなんですけど」


相談者は机を見る。


「予定が入ると、

“まあいいか”ってなるんです」

「断りたいほどじゃない」

「はい」

「でも楽しみでもない」


静かな肯定。


「会えば普通に話します。

変な空気にもならないし」

「うん」

「でも帰ったあと、

何も残らない」


少しだけ声が低くなる。


「写真も思い出も、

なんか全部薄い」


日下部はすぐには答えない。


「そいつ」

「はい」

「いなくなったら困る?」


相談者は考える。


「……困るとは思います」

「じゃあ切りたいわけじゃない」

「違います」

「でも増やしたいとも思わない」

「……はい」


短い沈黙。


「それな」


日下部が言う。


「“嫌じゃない”で続いてる関係だ」


相談者は少しだけ目を上げる。


「嫌いじゃない。

問題もない。

衝突もしない」


日下部は続ける。


「でも」


一拍。


「踏み込んでもない」


相談者の表情が動く。


「踏み込む」

「相手がどう思ってるかじゃなくて」

「はい」

「自分がどうしたいか、

あんまり出してないだろ」


否定しない。


「……出してないです」

「だからな」


日下部は淡々と言う。


「関係が“安全圏”のまま止まる」


窓の外で部活の声が上がる。


「安全圏って」

「壊れない距離」

「……ああ」


小さく納得する。


「壊れないけど」


日下部は続ける。


「深くもならない」


相談者は少しだけ笑う。


「それでいい気もするんです」

「いいと思う」


即答。


「全部の関係、深くする必要ない」


机の光が少し動く。


「ただ」


日下部は視線を上げる。


「“何も残らない”って感じるなら」

「はい」

「どこかで、

残る関係が欲しいんだろ」


相談者は黙る。

否定は出ない。


「一個だけでいい」


日下部が言う。


「そいつと」

「はい」

「ちょっとだけ、

どうでもいいこと言ってみろ」

「どうでもいいこと」

「正解とか気にしないやつ」


相談者は考える。


「……くだらない話、とか」

「そう」

「反応悪かったら」

「それも出来事」


淡々としている。


「安全圏、ちょっとだけ外れる」


沈黙。

相談者は小さく頷く。


「……やってみます」


日下部は頷いただけだった。


椅子が引かれる音。

立ち上がる。


ドアの前で振り返る。


「嫌じゃない関係って、

悪くないですよね」

「悪くない」


一拍。


「ただ、それだけで

全部埋めようとすると薄くなる」


相談者は小さく笑って出ていった。

ドアが閉まる。


風がまたカーテンを揺らす。

日下部は何も書かず、しばらく机を見ていた。

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