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放課後の教室。
カーテンが半分だけ閉まっている。
ノックは小さい。
「どうぞ」
日下部は椅子に座ったまま言う。
入ってきた生徒は、ドアを閉めてから少し立ち止まる。
「……あの」
「座れば」
促されて、前の席に座る。
少し沈黙。
「仲良かった子がいるんです」
「うん」
「ずっと一緒にいて、毎日話してて」
指先が机の端をなぞる。
「でも」
言葉が詰まる。
「急に話せなくなった」
日下部は表情を変えない。
「喧嘩は」
「してない」
「何かあった」
「分からない」
即答だった。
「気づいたら、沈黙が増えてて」
教室の時計が鳴る。
「目も合わせにくくなって」
「向こうも?」
「たぶん」
視線が下がる。
「嫌われたのかなって思ったけど、そういう感じでもなくて」
「避けられてる?」
「それも違う」
静か。
「ただ、前みたいじゃない」
日下部は少しだけ息を吐く。
「環境は」
「クラス替えはない」
「部活は」
「別になった」
短い沈黙。
「勢いが止まっただけだな」
「勢い?」
「毎日同じ空間にいると、話題は勝手に出る」
机に指を置く。
「物理的な距離が少し開くと、急に自力になる」
生徒は黙る。
「それで、あれ?ってなる」
「……戻りますか」
「戻ることもある」
一拍。
「でも“前と同じ”は難しい」
正直に言う。
生徒は唇を噛む。
「終わりですか」
「嫌いになったわけじゃないなら、終わりとは限らない」
静か。
「じゃあ何ですか」
「形が変わる途中」
沈黙。
「怖いです」
「うん」
「失う感じがして」
日下部は短く言う。
「関係は、同じ形で固定されない」
一拍。
「一回距離が変わって、それでも残るなら、それが本物だ」
生徒はゆっくり頷く。
「無理に戻そうとするな」
「……はい」
「今は“静かな時期”だと思っとけ」
時計が鳴る。
生徒は立ち上がる。
「嫌いになったわけじゃないなら、まだゼロじゃない」
日下部はそれだけ言う。
ドアが閉まる。
仲良かったのに話せなくなるのは、
壊れた証拠じゃなくて、
形が変わる前触れかもしれない。