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ruruha
558
#読み切り
ruruha
201
#ドラマ
柘榴とAI

92
榎本くもり
9,713
ドアが開く。
相談者は席に座ると、少し考えてから言った。
「最近、泣いてないなって思った」
蓮司は椅子を引く。
「うん」
「別に我慢してるわけじゃない」
「うん」
「悲しいことがないわけでもない」
「うん」
「でも泣かない」
蓮司は座った。
少し間。
「泣きたい?」
「分からない」
相談者は苦笑した。
「何か、昔の方がよく泣いてた気がする」
「小学生とか」
「その辺」
「今は?」
「泣く前に終わる」
蓮司は少し考える。
「終わる?」
「流れるというか」
「なるほど」
少し沈黙。
「でもさ」
相談者は机を見た。
「泣かなくなったのに、昔より疲れるんだよな」
蓮司は軽く頷く。
「そっちか」
間。
「何が違うんだろ」
「昔は泣いて終わってたことが」
「うん」
「今は頭に残る」
相談者は黙る。
「残る?」
「考える」
「うん」
「整理しようとする」
「うん」
「意味を探す」
「うん」
「疲れる」
少し静かになる。
「確かに」
「泣くって意外と単純だからな」
相談者は少し笑った。
「単純って言うな」
「悪い意味じゃない」
間。
「子どもの頃って」
蓮司は続ける。
「嫌だった」
「うん」
「泣いた」
「うん」
「終わり」
相談者は頷く。
「今は?」
「嫌だった」
「うん」
「何で嫌だったんだろ」
「うん」
「あの人どういう意味だったんだろ」
「うん」
「自分が悪かったのかな」
「うん」
「疲れる」
相談者は吹き出した。
「めちゃくちゃ疲れるな」
「だろ」
少し沈黙。
「でも泣ける方がいいのかな」
蓮司は少し考える。
「別に競技じゃない」
相談者は笑う。
「そうだけど」
「泣く回数で健康度決まらない」
間。
「じゃあ何で疲れるんだろ」
蓮司は机に肘をつく。
「感情が減ったんじゃなくて」
「うん」
「処理方法が変わった」
相談者は黙る。
「処理方法」
「昔は外に出てた」
「うん」
「今は中で回る」
少し静かになる。
「何か分かる」
間。
「あとさ」
「何」
「昔より、人に話さなくなったかも」
蓮司は頷いた。
「それもある」
「やっぱり?」
「子どもの頃って案外すぐ言う」
相談者は少し笑う。
「確かに」
「嫌だった」
「うん」
「ムカついた」
「うん」
「泣いた」
「うん」
「報告する」
相談者は吹き出した。
「報告するな」
「結構する」
間。
「今は?」
「言わないな」
「だから溜まる」
少し沈黙。
「何か、大したことないと思っちゃうんだよ」
蓮司は少し考える。
「大したことないなら」
「うん」
「何で疲れてる」
相談者は黙った。
間。
「それ言われると弱い」
「だろうな」
少し静かになる。
「でもさ」
「何」
「泣かなくなった自分見てると」
相談者は視線を落とす。
「冷たくなった気もする」
蓮司は首を横に振る。
「冷たくなったやつは、そんなこと気にしない」
相談者は少し黙った。
「そういうもんか」
「そういうもんだ」
間。
「泣かないから平気とは限らない」
「うん」
「泣くから弱いとも限らない」
「うん」
「それだけだ」
少し沈黙。
相談者は立ち上がる。
ドアの前で振り返った。
「昔より強くなったと思ってた」
「かもしれない」
「でも昔より疲れてる」
「それもあるだろうな」
相談者は小さく笑った。
ドアが閉まる。
泣かなくなったことと、
傷つかなくなったことは同じじゃない。
ただ、
感情の扱い方が少し変わっただけなのかもしれない。
コメント
1件
うん、これすごくわかるなあ……。「泣かないから平気とは限らない」ってセリフ、刺さった。大人になるほど「処理」が内側で回って、外に出せなくなってく感覚、めっちゃ共感する。蓮司の「冷たくなったやつはそんなこと気にしない」も優しくて、じんわりきた。続きが気になる……!