テラーノベル
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夜。
王都に非常鐘が響く。
神殿の白塔が、蒼く発光していた。
結界展開。
捕縛対象、確定。
名は――レオン=アストレア。
逃亡先、北区診療院。
包囲は静かに、だが確実に狭まる。
「来たわね」
リュシアが窓の外を見た。
白い外套が通りを埋めている。
神殿騎士。
数が違う。
前回の比ではない。
「本気だ」
レオンは息を吐く。
逃げ場はほぼない。
地下闘技場のガルムは言った。
『必要なら力を貸す』
だが闇と組めば、完全に異端になる。
まだ踏み切れない。
そのとき。
空気が震えた。
鋭い剣気。
白塔から一直線に伸びる気配。
「……兄上」
分かる。
《剣聖候補》。
アルトが来る。
診療院の扉が、爆ぜた。
木片が舞う。
立っていたのは。
アルト。
白銀の剣を携え、光る紋章。
神殿騎士たちが後方に控える。
「レオン」
低い声。
「もう逃げ場はない」
感情は抑えられている。
だが瞳は揺れている。
「捕まえに来たのか」
「連れ戻しに来た」
言葉を選んだ。
「神殿はお前を“装置”として拘束する気だ」
リュシアが息を呑む。
「装置、知ってるのね」
「禁書庫を読んだ」
アルトの視線が一瞬、リュシアへ向く。
「聖女候補だったな」
「元、よ」
アルトは頷く。
そして弟へ戻る。
「お前は利用される」
「もうされてる」
静かな返答。
「最初からな」
空気が張り詰める。
「奪う力を制御できないなら、神殿はお前を封じる」
「制御できる」
「証明できるか」
痛い問い。
沈黙が答えになる。
アルトが一歩踏み出す。
「俺と来い」
「断る」
即答。
アルトの眉がわずかに寄る。
「なぜだ」
「俺は装置じゃない」
強く言う。
「俺が奪うかどうかは、俺が決める」
アルトの目が揺れる。
「それが危険だと言っている」
「危険なのは祝福制度だ」
リュシアが息を呑む。
「差を作って、削って、均衡だと?」
「均衡がなければ戦争だ」
アルトの声が強まる。
「力は集中する。暴走する」
「だから俺が削る?」
「それが役目だ」
その言葉。
役目。
レオンの胸が冷える。
「お前も、俺を装置扱いか」
一瞬。
アルトは言葉を失う。
「……違う」
かすれた声。
「だが事実だ」
痛いほど真面目だ。
兄は世界を信じている。
祝福を信じている。
だから壊せない。
「俺は奪う」
レオンは言う。
「でも神のためじゃない」
「誰のためだ」
「俺が守ると決めた人のためだ」
視線がリュシアへ向く。
アルトの目が細くなる。
「聖女候補を失った女か」
「名前がある」
レオンの声が低い。
アルトは剣を構える。
「証明しろ」
空気が裂ける。
「お前が装置ではなく、人間だと」
踏み込む。
速い。
剣閃が光を引く。
レオンは避ける。
床が裂ける。
これが《剣聖候補》。
まだ完成前。
それでも圧倒的。
触れれば。
奪えば。
勝てる。
手が伸びる。
兄の腕を掴む。
胸が爆ぜる。
強烈な流入。
今までで最大。
視界が白む。
これを全部奪えば。
兄はただの人間。
自分は最強。
喉が震える。
兄が言う。
「奪え」
低く。
「証明したいなら、俺を超えてみろ」
挑発ではない。
覚悟。
レオンの歯が軋む。
奪える。
簡単だ。
兄の未来。
剣聖の道。
全部。
だが。
それは。
守ることか?
違う。
ただの奪取だ。
レオンは力を緩める。
流入を止める。
兄の紋章が、かすかに揺れたまま止まる。
「……俺は」
息を吐く。
「兄の未来までは奪わない」
アルトの目が見開く。
次の瞬間。
背後の神殿騎士が動く。
「異端確定!」
光が放たれる。
拘束の術式。
リュシアに向かう。
レオンは反射で動く。
騎士を掴む。
奪う。
今度は迷わない。
完全に削る。
騎士の紋章が消える。
膝から崩れ落ちる。
静寂。
完全消失。
初めての“全奪取”。
重い。
胸が焼ける。
リュシアが無事なのを確認する。
兄が低く言う。
「……選んだな」
「ああ」
装置ではない。
人間として。
誰を削るか、自分で決める。
それは。
神への反逆。
アルトは剣を下ろす。
「次は、止める」
宣告。
兄としてか。
《剣聖候補》としてか。
両方だ。
神殿の鐘が乱打される。
完全包囲。
世界が、敵になる。
リュシアが静かに言う。
「もう戻れないわね」
レオンは頷く。
「最初から戻る場所はない」
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