テラーノベル
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夜は静かだった。
神殿の包囲は一時退いた。
だがそれは嵐の前の静寂に過ぎない。
診療院の奥。
壊れた扉の代わりに板が打ち付けられている。
レオンは壁にもたれて座っていた。
右手が、まだ熱い。
完全に奪った騎士の感触が残っている。
消えた紋章。
空になった器。
自分がやった。
守るためだと、自分に言い聞かせても。
あれは“消失”だった。
「眠れない?」
リュシアが隣に座る。
「……ああ」
「初めて、全部奪ったのね」
否定できない。
「後悔してる?」
すぐに答えられない。
「分からない」
本音だった。
守れた。
でも、消した。
どちらが重いか、まだ測れない。
リュシアは少し黙る。
そして言う。
「あなたは優しい」
レオンは顔をしかめる。
「違う」
「優しいわ」
静かに、だが確信を持って。
「奪う相手を選んでる」
「それはただの自己満足だ」
「違う」
少しだけ強い声。
「装置なら、均等に削る」
必要量を、感情なく。
「でもあなたは、守る相手を基準に削る」
そこに感情がある。
「それが優しさ」
レオンは拳を握る。
「優しさで、人は消える」
低い声。
リュシアは頷く。
「ええ」
肯定。
「だから残酷なの」
静寂。
「優しい人は、誰かを守ろうとする」
「当たり前だ」
「でも守るってことは、選ぶってこと」
胸がざわつく。
「選ばれなかった側は、削られる」
その現実。
「あなたは神より残酷かもしれない」
レオンは目を見開く。
「神は均衡で削る」
差別なく。
冷酷だが、平等。
「あなたは愛で削る」
偏る。
守りたい人のために。
「それは、もっと人間的で」
小さく息を吐く。
「もっと残酷」
言葉が、胸に沈む。
否定できない。
自分は選んだ。
リュシアを守るために。
騎士を消した。
「怖い?」
彼女が問う。
「何が」
「あなたが、神より残酷になること」
沈黙。
怖い。
でもそれ以上に。
「何も選べない方が怖い」
やっと出た本音。
祝福を持たず。
期待を奪われ。
装置と決められ。
選択肢すら与えられない人生。
「俺は選ぶ」
震える声。
「間違えても、自分で決める」
リュシアはじっと見つめる。
「それなら」
少し微笑む。
「私はあなたの側にいる」
「なぜ」
「あなたが全部奪うとき」
その目は揺れない。
「止める人が必要でしょう?」
心臓が強く打つ。
「あなたが優しいままでいられるように」
静かな告白。
愛ではない。
依存でもない。
覚悟だ。
「私の祝福が消えた理由」
唐突に言う。
「偶然じゃないと思う」
レオンは顔を上げる。
「どういう意味だ」
「私は、均衡を疑った」
神殿で。
祝福制度を。
「だから“削られた”」
息が止まる。
「あなたが作動する前に、均衡が動いた」
つまり。
神は自ら修正する。
不要な思想を削る。
「次はあなたよ」
静かに言う。
「あなたが“制度を壊す側”になるなら」
神は。
本気で消しに来る。
沈黙。
遠くで鐘が鳴る。
重く。
低く。
神殿総動員の合図。
「最後の選択が来る」
リュシアが言う。
「全部奪って、自分に固定するか」
世界最強になる。
「それとも」
視線が交差する。
「祝福を、世界に返すか」
返す。
つまり。
装置を止める。
祝福制度そのものを揺るがす。
どちらも地獄だ。
レオンは目を閉じる。
優しさは残酷。
だが。
何も選ばないよりはいい。
「……俺は」
まだ言えない。
だが、近い。
選択は目前。
#執着攻め
しめさば
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