テラーノベル
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昼休み、廊下の端。
女子グループは、スマホを囲んで笑いを噛み殺していた。
「ねぇ、昨日のさ……“倉庫の動画”、見た?」
「え? あれ本物だったの? うわ、ヤバ……」
――倉庫の動画?
遥には心当たりがある。
だが、撮られた覚えはない。
実際は、女子たちが適当に加工した“それっぽい影と声”で作られたフェイク。
けれど彼女たちは、あたかも“事実の暴露”という体裁で話を進める。
「なんかさ、女子にベタベタされてたくせに、男子にも触られて平気なんだって」
「どっちでも赤くなるの、ウケるよね〜」
遥の心臓が跳ねる。
顔は固まる。
しかし彼女たちは、その“固まり”すら楽しんでいる。
「ねぇ遥、そんなつもりじゃなかったのかもしれないけどさ?」
リーダー格の女子が、わざと聞こえる声で言う。
「……誤解されたくないなら、ちゃんと否定すれば?」
“否定”という選択肢自体が罠だと、遥は分かっている。
否定すれば、
――図星だから?
肯定すれば、
――ほらね?
逃げ道がない。
それでも女子たちは、
“噂を本物にするための演出”を続けた。
たとえば、廊下でわざと遥の腕を強く掴む。
「ちょっと来て」
周囲に聞こえるように、
わざとイチャつきにも見える距離に引き寄せる。
「動かないで。顔、赤くしてみ?」
遥の喉が軋む。
すると女子は、すかさず声を大きくする。
「ほら〜、やっぱり赤くなるじゃん。
……動画のときと同じ顔」
周囲の男子が振り向く。
――それを待っていたのだ。
女子グループは、遥が反応する瞬間だけを切り取って写真に撮る。
“触れてないのに触れてるように見える角度”
“距離が近く見える構図”
“遥の表情だけが妙に羞恥っぽく見える瞬間”
プロの演出のような手際。
「次はさ、もっと分かりやすいの、してあげよっか?」
美桜が囁く。
くぐもった笑いが広がる。
「“女子に弱い男”って、ほんと扱いやすくて楽しいね」
そして、噂の“次の段階”が追加される。
◆「遥は女子に触られると固まる」
↓
◆「遥は女子に抱きつかれた」
↓
◆「遥は女子の言いなり」
↓
◆「遥は女子に“そういうこと”された」
(曖昧な“そういう”が意図的)
あくまで直接的ではない。
でも、誰が聞いても性的な匂わせを想像させる。
女子たちは、最後に決定打を置く。
「ねぇ、遥。
本当に嫌だったら泣けばよかったのに?」
――泣けるわけがない。
泣いたら、それこそ“動画の続編”にされる。
女子たちの狙いは、
いじめの中心を“男子の妄想”から“女子自身の物語”へ再支配すること。
遥はその真ん中に立たされる。
教室に戻ると、すでに数人の男子が
スマホ画面を見ながらニヤついていた。
女子の演出は成功した。
“噂”は、遥にとっての現実より、ずっと強い。
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