テラーノベル
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放課後。
教室には夕方の光だけ残っていて、人の気配はもう薄い。
生徒は椅子に座って、ペットボトルを触り続けている。
「優しくされると」
間。
「逆に離れたくなるんです」
遥は静かに視線を向ける。
「誰に」
短く。
「別に誰でもです」
一拍。
「気にかけられたり、ちゃんと接してもらったり」
視線が落ちる。
「普通なら嬉しいはずなのに」
少し苦く笑う。
「急に逃げたくなる」
沈黙。
遥はすぐ返す。
「借りができる感じか」
短く。
生徒は止まる。
「……あ」
小さく出る。
遥は机に指を置く。
「優しくされると」
一拍。
「“返さなきゃ”が始まる」
教室が静まる。
「……あります。期待された気になるし、ちゃんとしなきゃってなる」
一拍。
「それが重い」
遥は否定しない。
「だろうな」
短く。
沈黙。
「あと」
生徒は言う。
「優しくされた後に冷たくなるの、怖いです」
教室の空気が少し止まる。
遥は視線を逸らさない。
「落差警戒してるな」
短く。
生徒は黙る。
遥は続ける。
「最初だけ優しいとか、途中で変わるとか」
一拍。
「そういうの、覚えてる」
沈黙。
「……はい」
小さく返る。
「だから」
少し言葉が遅くなる。
「近づく前に逃げた方が楽になる」
遥は言う。
「傷が浅いうちにな」
短く。
教室が静まる。
生徒はペットボトルを握り直す。
「でも」
一拍。
「それやってると、結局誰とも近くならない」
遥は短く言う。
「そうだな」
沈黙。
「じゃあどうすればいいですか」
遥は少しだけ間を置く。
「“優しさ=契約”で受け取るな」
短く。
生徒は眉を寄せる。
「……契約」
遥は言う。
「何かされた。だから返さなきゃ」
一拍。
「だから期待に応えなきゃ」
短く。
「そこまで背負いすぎてる」
教室の空気が少し変わる。
「……でも」
生徒は言う。
「返さないのも嫌じゃないですか」
遥は否定しない。
「返すのはいい」
短く。
「問題は」
一拍。
「“自分の自由まで渡す”ことだ」
沈黙。
生徒は止まる。
遥は続ける。
「優しくされた瞬間、嫌われないように変わる。期待通りになろうとする」
一拍。
「そこまで行くと苦しくなる」
教室が静まる。
「……俺」
小さく。
「好かれた瞬間から演技増えるかも」
遥は短く言う。
「だから逃げたくなる」
沈黙。
教室の外を風の音が抜ける。
「優しくされても」
生徒は言う。
「そのままでいていいんですか」
遥は机を軽く叩く。
「そのままでいられないなら」
一拍。
「結局また消耗する」
短く。
沈黙。
生徒はゆっくり頷く。
「……なんか」
少し笑う。
「優しさそのものじゃなくて」
一拍。
「その後、自分が勝手に重くしてたのか」
遥は何も言わない。
生徒は立ち上がる。
優しさを受け取るたび、“ちゃんと返さなきゃ”で自分を縛ると、近づくほど苦しくなる。
人との距離は、返済で作るものじゃない。
コメント
1件
「優しさ=契約」という捉え方に、はっとさせられました。確かに優しくされると無意識に「返さなきゃ」と背負ってしまう感覚、とても共感できます。遥の「自分の自由まで渡すな」という指摘が核心を突いていて、距離の取り方について深く考えさせられる回でした。
ruruha