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名無しのななしさん
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ruruha
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コメント
1件
うわ、これめっちゃ刺さった……。「普通の家庭の話が苦しい」って感情、めちゃくちゃわかるわ。遥の「羨ましいと思うこと自体はやめなくていい」ってセリフ、めっちゃ救われた。自分を責めなくていいんだって思えた。比較を続けるなって言葉も、ズシンときた。ruruhaさんの描くこういう人間の繊細な感情、ほんと好き🫶
放課後。
窓の外では運動部がまだ声を出している。
生徒は椅子に座ったまま、珍しくなかなか話し始めない。
遥も待つ。
やがて、生徒が口を開いた。
「……別に、その人が悪いわけじゃないんです」
遥は何も言わない。
「むしろ、いい人です」
一拍。
「でも」
言葉が詰まる。
「家族の話とか聞いてると」
視線が落ちる。
「苦しくなる」
教室が静かになる。
「どんな話だ」
短く。
「普通の話です」
生徒は苦笑する。
「親と出かけたとか、家で一緒にゲームしたとか、誕生日祝ってもらったとか」
一拍。
「そんなの」
少し間が空く。
「別に自慢でもないし、普通の会話なのに」
沈黙。
「なんか聞いてられなくなる」
遥は机に指を置く。
「羨ましいのか」
短く。
生徒は少し考える。
「……多分」
そして首を振る。
「いや」
小さく息を吐く。
「羨ましいだけじゃないです」
遥は黙っている。
「悔しいというか、腹立つというか」
一拍。
「なんで自分にはなかったんだろうってなる」
教室の空気が少し重くなる。
遥は否定しない。
「そうなるだろうな」
短く。
生徒は少し驚いた顔をする。
「……性格悪いと思ってました」
遥は視線を向ける。
「なんで」
「だって」
生徒は言う。
「相手は何も悪くないのに勝手に苦しくなってるから」
遥は少しだけ間を置く。
「苦しいのは」
短く。
「相手の幸せを見たからじゃない」
生徒は止まる。
遥は続ける。
「自分が失ったものを思い出したからだ」
教室が静まる。
生徒は何も言わない。
「普通に話してるだけの相手が」
遥は言う。
「悪いわけじゃない」
一拍。
「でも、その話が」
少し間。
「傷の位置に当たることはある」
沈黙。
生徒はゆっくり頷く。
「……あります」
小さく。
「家族旅行の話とか、親と仲いい話とか」
一拍。
「聞いてると、自分だけ別の世界みたいで」
遥は言う。
「比べるからな」
短く。
「しかも」
一拍。
「努力じゃ埋まらない部分だ」
教室が静まる。
生徒は顔を上げる。
遥は続ける。
「勉強なら追いつけるかもしれない。部活もそうだ」
一拍。
「でも、子どもの頃にもらえなかったものは」
短く。
「今から取り返せない」
沈黙。
その言葉は重かった。
生徒もすぐには返せない。
「……それです」
やっと出た声は小さい。
「頑張れば何とかなる話じゃない」
一拍。
「だから余計にしんどい」
遥は何も否定しない。
しばらく静寂が落ちる。
遠くでホイッスルが鳴る。
「でもな」
遥が言う。
生徒は顔を上げる。
「一個だけ勘違いしてる」
短く。
「……何ですか」
遥は窓の外を見る。
「普通の家庭で育ったやつは」
一拍。
「幸せなやつじゃない」
教室が静まる。
生徒は眉を寄せる。
「……え」
遥は続ける。
「傷の種類が違うだけだ」
短く。
「苦しみがないわけじゃない」
沈黙。
「ただ」
一拍。
「お前が羨ましい部分はある」
教室の空気が少し変わる。
生徒は黙って聞いている。
「だから」
遥は言う。
「羨ましいと思うこと自体はやめなくていい」
短く。
「無理だからな」
一拍。
「羨ましいなら羨ましいでいい」
沈黙。
「じゃあ」
生徒は言う。
「どうしたらいいんですか」
遥は少し考える。
「その人を見続けるな」
短く。
生徒は止まる。
「……逃げろってことですか」
遥は首を振らない。
「違う」
一拍。
「比較を続けるな」
教室が静まる。
「相手の人生を見て自分の足りない部分を数える作業」
短く。
「それ、終わりがない」
沈黙。
生徒はゆっくり息を吐く。
「……確かに」
小さく笑う。
「勝てないですね」
遥は言う。
「最初から勝負じゃない」
短く。
教室は静かになる。
生徒は立ち上がる。
ドアへ向かう途中で足を止めた。
「羨ましいって」
一拍。
「思ってもいいんですね」
遥は短く答える。
「思うだろ」
それだけだった。
生徒は少しだけ肩の力を抜いて教室を出る。
羨ましさは、性格の悪さじゃない。
失ったものがある人間が、失わなかった人間を見た時に生まれる、ごく自然な感情だ。
問題なのは羨ましがることじゃない。
その比較の中に、ずっと住み続けることだ。