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ruruha
558
#読み切り
ruruha
201
#ドラマ
柘榴とAI

92
榎本くもり
9,713
ドアが開く。
相談者は席に座ると、しばらく机を見ていた。
「何かさ」
蓮司は椅子を引く。
「うん」
「昔の自分の方が、自分らしかった気がする」
蓮司は座った。
少し間。
「いつ頃」
「中学とか」
「何が違う」
相談者は少し考える。
「分かんない」
「うん」
「でも今より楽しそうだった」
「うん」
「もっと自然だった気がする」
少し沈黙。
「戻りたい?」
「いや」
相談者は首を横に振る。
「そうでもない」
「じゃあ何だ」
「何なんだろうな」
間。
「昔の方が、自分だった感じ」
蓮司は軽く頷く。
「よくある」
相談者は苦笑する。
「また普通か」
「結構な」
少し静かになる。
「でもさ」
「うん」
「今の方が色々知ってる」
「うん」
「できることも増えた」
「うん」
「なのに昔の方が良かった気がする」
蓮司は少し考えた。
「お前」
「何」
「昔の自分を、美化してないか」
相談者は笑う。
「してるかも」
「人間得意だからな」
間。
「でも本当に楽しかった記憶もある」
「あるだろうな」
「じゃあ間違ってない?」
「間違いじゃない」
少し沈黙。
「ただ」
蓮司は続けた。
「昔の自分って、結果知ってるんだよ」
相談者は顔を上げる。
「結果?」
「そう」
「中学時代」
「うん」
「終わった」
「うん」
「だから安心して見られる」
間。
「今は?」
「現在進行形」
「終わってない」
「終わってない」
「だから不安もある」
相談者は黙った。
少し静かになる。
「何かずるいな」
「かなりな」
相談者は笑う。
間。
「あと」
蓮司は机に肘をつく。
「昔って、“可能性”が多く見える」
「うん」
「未来知らなかったから」
「うん」
「何にでもなれる感じ」
「うん」
「今は?」
相談者は小さく息を吐く。
「現実見えてる」
「それだな」
少し沈黙。
「じゃあ今の自分が悪いわけじゃない?」
「悪くない」
「ただ夢が減っただけ?」
「違う」
相談者は顔を上げる。
「違う?」
「選択肢が減ったんじゃない」
「うん」
「具体的になった」
間。
「子どもの頃の地図って広い」
「うん」
「でも大人に近づくと」
「うん」
「道が見えてくる」
相談者は黙る。
「だから狭く感じる」
「そう」
少し静かになる。
「何か」
「何」
「今の自分って、前より面白くない気がする」
蓮司は少し考えた。
「それ、本当に今の話か?」
相談者は首を傾げる。
「どういうこと」
「今のお前じゃなくて」
「うん」
「昔のお前に優しすぎるだけかもな」
相談者は止まった。
間。
「優しすぎる?」
「失敗したこと」
「うん」
「恥かいたこと」
「うん」
「泣いたこと」
「うん」
「大分忘れてるだろ」
相談者は笑った。
「忘れてる」
「でも今の失敗は覚えてる」
「覚えてる」
「だから昔が勝つ」
少し沈黙。
「フェアじゃないな」
「全然」
間。
「じゃあ昔の自分の方が、自分らしかったわけじゃない?」
蓮司は少し笑った。
「多分な」
「うん」
「昔の自分は完成品になってる」
「うん」
「今の自分は工事中」
相談者は吹き出した。
「工事中か」
「工事中」
少し静かになる。
「完成する?」
「知らん」
「適当だな」
「完成したと思ったら、また工事だ」
相談者は少し笑った。
間。
立ち上がり、ドアの前で振り返る。
「昔の自分に戻りたいんじゃなくて」
「うん」
「今の自分に慣れてないだけかも」
「そっちの方が近そうだ」
ドアが閉まる。
昔の自分の方が自分らしかった気がするのは、昔が特別だったからとは限らない。
今の自分がまだ、現在進行形だからなのかもしれない。
コメント
1件
うわあああ…この話、めっちゃ沁みた…😭💦 「工事中」って表現、めちゃくちゃ好き。“昔の自分は完成品で、今の自分は工事中”って、そういう考え方アリだなって思った。 「昔の自分に戻りたいんじゃなくて、今の自分に慣れてないだけ」ってラストの台詞が胸に刺さりすぎて、しばらくその余韻に浸ってたよ…✨ 蓮司のゆるいけど核心つく受け答え、二人の空気感がすごく自然で、読んでてほっこりしたよ〜!!