テラーノベル
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ドアが開く。
相談者は席に座ると、少し考えてから言った。
「昔は平気だったんだけどさ」
蓮司は椅子を引く。
「うん」
「今はちょっと苦手になったことがある」
蓮司は座った。
「何」
「色々」
「例えば」
「人多い場所とか」
「うん」
「初対面とか」
「うん」
「電話とか」
少し間。
「前はそんなことなかった」
「そう」
相談者は机を見た。
「何か弱くなった気がする」
蓮司は黙る。
「そう思う?」
「思う」
少し沈黙。
「何歳の頃」
「中学とか」
「今は?」
「高校」
「なるほど」
蓮司は軽く頷いた。
「そんな珍しくない」
相談者は苦笑する。
「またそれか」
「最近多いな」
少し笑う。
間。
「でも嫌なんだよ」
「何が」
「できてたことができなくなる感じ」
「うん」
「前の自分に負けてるみたいで」
蓮司は少し考える。
「お前」
「何」
「前と同じ条件か?」
相談者は止まった。
「条件?」
「そう」
「中学の時と」
「うん」
「考えてること同じか」
「違う」
「環境は」
「違う」
「悩みは」
「違う」
「責任は」
「違う」
少し沈黙。
「確かに」
「同じ人間じゃない」
間。
「でも平気だったのに」
「本当に平気だった?」
相談者は顔を上げる。
「え」
「平気だったのか」
「うん」
「それとも覚えてないだけか」
相談者は黙った。
少し静かになる。
「そう言われると」
「うん」
「昔も嫌だったかも」
「あるな」
「でも今ほどじゃなかった」
「経験したからかもな」
間。
「経験?」
「嫌な思いしたとか」
「うん」
「失敗したとか」
「うん」
「人間、一回知ると慎重になる」
相談者は黙る。
「じゃあ弱くなったんじゃない?」
「一概にはな」
少し沈黙。
「何かさ」
「何」
#ドラマ
ruruha
233
「昔は何も考えてなかった」
蓮司は少し笑った。
「それ強いからな」
相談者も笑う。
「無敵だった」
「知らないって強い」
間。
「今は考える」
「うん」
「気にする」
「うん」
「疲れる」
「うん」
「大人に近づいてる」
相談者は苦笑した。
「嬉しくないな」
「俺もだ」
少し静かになる。
「でもさ」
「何」
「苦手になったってことは」
「うん」
「もうできないってこと?」
蓮司は首を横に振る。
「違う」
「違う?」
「平気じゃなくなっただけ」
相談者は黙る。
「できないとは別」
間。
「平気じゃなくてもできる?」
「できる」
「嫌でも?」
「できる」
少し沈黙。
「何か変な感じ」
「人間そんなもんだ」
間。
「あと」
蓮司は続けた。
「昔の自分って、基準にするには強すぎる」
相談者は首を傾げる。
「強すぎる?」
「美化されてる」
「またか」
「まただ」
少し笑う。
「昔の自分は失敗を忘れてる」
「うん」
「今の自分は失敗を覚えてる」
「うん」
「だから比較すると今が負ける」
相談者は小さく息を吐いた。
少し静かになる。
「何か」
「何」
「前より弱くなったと思ってた」
蓮司は少し考えた。
「前より色々知っただけかもしれない」
相談者は黙る。
間。
立ち上がり、ドアの前で振り返る。
「平気じゃなくなったことと、できなくなったことは別か」
「別だな」
「ちょっと安心した」
「それなら何より」
ドアが閉まる。
昔は平気だったことが苦手になるのは、弱くなった証拠とは限らない。
色々知って、色々経験したからこそ、前とは違う感じ方になることもある。
コメント
1件
ああ、この話、すごく良かったです…「平気じゃなくなったこと」と「できなくなったこと」をちゃんと分けてくれる蓮司の言葉、沁みました。私も「昔できてたのに」って自分のことを責めがちなんですけど、環境も経験も違うんだから比べる方が無理だよなって。知らない方が無敵で、知るから慎重になる――その視点にすごく救われました。淡々とした会話のやりとりの中に、たくさんの優しさが詰まっていて、何度も読み返したくなります。