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#独占欲
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最初に消えたのは、第三観測帯の金星だった。
歴代王妃の中でも、最も強い愛を示したと記録されている星。
国庫増収の象徴。
豊穣の証。
「……減衰、確認」
学官の声が震える。
天文盤の上で、金色の光が薄れていく。
「出力、基準値を下回りました」
沈黙。
それは前例のない事態だった。
星は生まれるものだ。
消えることはない。
少なくとも、理論上は。
王宮に緊急召集がかかる。
王族、学官、財務官。
会議室の空気は張り詰めていた。
「無色の星出現以降、金色波形が不安定になっている」
「やはり因果が」
「無色が既存の愛を侵食しているのでは」
憶測が飛び交う。
だが証明はない。
王太子は天文資料を見つめる。
確かに、金色の星は弱まっている。
しかし。
「他の要因は検討したのか」
冷静な声。
「王妃の感情記録は」
「直近の王妃は安定しています」
「ならば」
言葉を選ぶ。
「星の“持続性”に問題がある可能性は」
会議室がざわめく。
「持続性?」
「強い愛が必ずしも永続するとは限らない」
金色は強い。
だが、爆発的だ。
「金色の愛が、恒久的である保証はない」
誰も言わなかった疑問。
歴史は、金色を絶対視してきた。
「だが星は消えた」
「事実だ」
王族の一人が鋭く言う。
「そして同時期に、記録不能の星が増えている」
空の透明な光は、今や三つに増えている。
誰にも見えない。
だが観測者には分かる。
存在している。
「これは置換ではないか」
誰かが言う。
「金色が減り、無色が増える」
会議室の金色が不安に濁る。
愛の絶対性が揺らぐ。
王太子は黙る。
頭の中に浮かぶのは、彼女の言葉。
――色にならない感情は、存在しないと断じてよいのでしょうか。
夜。
観測塔。
エリュネは空を見上げていた。
金色の星がひとつ、明らかに弱い。
代わりに、透明な光が増えている。
「私は、奪っているのですか」
呟き。
自分が原因で、既存の星が消えるのなら。
それは国にとって害だ。
背後に気配。
「違う」
王太子だった。
即座の否定。
「まだ因果は証明されていない」
「ですが、時期は一致しています」
「一致は因果ではない」
強い声。
彼は彼女の隣に立つ。
距離は近い。
だが触れない。
「私は思う」
彼は空を見る。
「金色は、強すぎるのかもしれない」
「強すぎる」
「爆発的で、燃え尽きる」
透明な星は、静かだ。
揺らがず、ただ在る。
「君のそれは」
言葉を選ぶ。
「燃えない」
エリュネは胸に手を当てる。
振動は、穏やかだ。
強くも弱くもない。
「私は、星を生んでいません」
「だが、何かは起きている」
金色の星が、さらに弱まる。
会議室では今頃、排除論が再燃しているはずだ。
「もし、金色の愛が偽物だったら」
エリュネが言う。
「偽物?」
「国力のために求められた愛。評価されるための愛」
可視化され、称賛され、期待される感情。
それは純粋だろうか。
彼は答えない。
だが思い当たる節はある。
星を生むために、愛を誇張した王妃もいた。
国のために。
義務として。
それは本物か。
透明な星が、静かに光る。
測られない。
評価されない。
それでも存在する。
「私は」
彼が低く言う。
「君のそれを、偽物とは思わない」
エリュネの胸が、わずかに震える。
「だが国は」
「時間が必要だ」
断言。
「私は時間を稼ぐ」
王として。
そして一人の男として。
金色の星が、ついに完全に消えた。
観測塔に警鐘が鳴り響く。
前例のない事態。
愛の象徴の消失。
空には、代わりに透明な光が四つ。
静かに、確実に増えている。
崩れるのは、星か。
それとも、定義か。
夜は深く、揺らいでいた。