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金色の消失は、翌朝には「異常事象」として公表された。
だが、宮廷内部では別の言葉が使われていた。
――淘汰。
愛の淘汰。
「無色を隔離すべきです」
評議会の最古参が言う。
「既存の星系を乱す存在は、王妃として不適格」
理屈は単純だ。
金色が消えた。
無色が増えた。
因果は不明。
だが恐怖は、証明を待たない。
王太子は沈黙して聞いていた。
「隔離とは」
「公的な場から退いていただく。観測対象として保護下に置く」
柔らかな言葉。
だが実質は、幽閉。
「拒否権は?」
「国家存続に関わる問題です」
正論の顔をした圧力。
愛は国力。
ならば、不確定要素は排除。
王太子は机上の資料を閉じた。
「因果が証明されるまで、処分は保留だ」
「しかし!」
「保留だ」
低く、強い。
金色は発さない。
感情を乗せない。
王としての声。
会議は一時解散となる。
だが時間は稼げない。
夜。
エリュネのもとへ報せが届く。
「……隔離案」
紙面を読み終え、彼女は瞬きを一度。
動揺は小さい。
予測していた。
扉が開く。
王太子。
「止めた」
「一時的に、ですね」
彼は頷く。
「君は怖くないのか」
「怖い、の定義が曖昧ですが」
少し考える。
「排除される可能性は、合理的帰結です」
「合理的ではない」
即座に否定。
「恐怖から来ている」
彼は彼女の前に立つ。
距離が近い。
だが触れない。
「私は」
言葉が一瞬詰まる。
「君を、観測対象にはさせない」
それは王の宣言ではない。
一人の男の決意。
「殿下」
「私は君を選んだ」
静かな声。
「国のためではなく」
エリュネの胸が、強く脈打つ。
透明な星が、外で明滅する。
「それが誤りでも?」
「構わない」
迷いのない答え。
「私は、君が隔離される未来を受け入れられない」
それは国家基準では、明確な愛。
だが彼は星を生まない。
感情を誇示しない。
ただ、選ぶ。
「選ぶ、とは何でしょう」
エリュネは問う。
「比較の上での優先ですか」
「違う」
即答。
「理由がなくても、手放さないと決めることだ」
合理性を超えた意志。
それはこの国が最も苦手とする概念。
透明な星が、また一つ増える。
五つ目。
観測塔で警鐘が鳴る。
同時に、別の報せが届く。
地方の青星が、微弱に減衰。
金ではない。
青。
冷静と忠誠の色。
「……置換ではない」
エリュネが呟く。
#独占欲
「構造が変化している」
彼女の胸の振動は、安定している。
燃え上がらない。
消えもしない。
「淘汰ではなく」
彼女は空を見る。
「再定義」
金も青も、揺らぎ始めている。
愛の強度ではなく、持続。
爆発ではなく、安定。
「私は」
彼が言う。
「君を失うくらいなら、定義が崩れる方を選ぶ」
その瞬間。
透明な星が、一瞬だけ強く光る。
金色でも、青でもない。
色のない輝き。
観測不能の波形が、王宮全体をかすかに揺らす。
評議会は気づく。
これは排除では止まらない。
無色は、個ではない。
概念だ。
エリュネは静かに息を吐く。
自分は欠陥ではないかもしれない。
だが、変革の引き金である可能性は高い。
「殿下」
「何だ」
「それでも、選びますか」
彼は迷わない。
「ああ」
短い答え。
合理性を捨てた、選択。
空の透明な星が、ゆっくりと回転する。
選別は、まだ始まったばかりだった。