テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
金色の消失は、翌朝には「異常事象」として公表された。
だが、宮廷内部では別の言葉が使われていた。
――淘汰。
愛の淘汰。
「無色を隔離すべきです」
評議会の最古参が言う。
「既存の星系を乱す存在は、王妃として不適格」
理屈は単純だ。
金色が消えた。
無色が増えた。
因果は不明。
だが恐怖は、証明を待たない。
王太子は沈黙して聞いていた。
「隔離とは」
「公的な場から退いていただく。観測対象として保護下に置く」
柔らかな言葉。
だが実質は、幽閉。
「拒否権は?」
「国家存続に関わる問題です」
正論の顔をした圧力。
愛は国力。
ならば、不確定要素は排除。
王太子は机上の資料を閉じた。
「因果が証明されるまで、処分は保留だ」
「しかし!」
「保留だ」
低く、強い。
金色は発さない。
感情を乗せない。
王としての声。
会議は一時解散となる。
だが時間は稼げない。
夜。
エリュネのもとへ報せが届く。
「……隔離案」
紙面を読み終え、彼女は瞬きを一度。
動揺は小さい。
予測していた。
扉が開く。
王太子。
「止めた」
「一時的に、ですね」
彼は頷く。
「君は怖くないのか」
「怖い、の定義が曖昧ですが」
少し考える。
「排除される可能性は、合理的帰結です」
「合理的ではない」
即座に否定。
「恐怖から来ている」
彼は彼女の前に立つ。
距離が近い。
だが触れない。
「私は」
言葉が一瞬詰まる。
「君を、観測対象にはさせない」
それは王の宣言ではない。
一人の男の決意。
「殿下」
「私は君を選んだ」
静かな声。
「国のためではなく」
エリュネの胸が、強く脈打つ。
透明な星が、外で明滅する。
「それが誤りでも?」
「構わない」
迷いのない答え。
「私は、君が隔離される未来を受け入れられない」
それは国家基準では、明確な愛。
だが彼は星を生まない。
感情を誇示しない。
ただ、選ぶ。
「選ぶ、とは何でしょう」
エリュネは問う。
「比較の上での優先ですか」
「違う」
即答。
「理由がなくても、手放さないと決めることだ」
合理性を超えた意志。
それはこの国が最も苦手とする概念。
透明な星が、また一つ増える。
五つ目。
観測塔で警鐘が鳴る。
同時に、別の報せが届く。
地方の青星が、微弱に減衰。
金ではない。
青。
冷静と忠誠の色。
「……置換ではない」
エリュネが呟く。
「構造が変化している」
彼女の胸の振動は、安定している。
燃え上がらない。
消えもしない。
「淘汰ではなく」
彼女は空を見る。
「再定義」
金も青も、揺らぎ始めている。
愛の強度ではなく、持続。
爆発ではなく、安定。
「私は」
彼が言う。
「君を失うくらいなら、定義が崩れる方を選ぶ」
その瞬間。
透明な星が、一瞬だけ強く光る。
金色でも、青でもない。
色のない輝き。
観測不能の波形が、王宮全体をかすかに揺らす。
評議会は気づく。
これは排除では止まらない。
無色は、個ではない。
概念だ。
エリュネは静かに息を吐く。
自分は欠陥ではないかもしれない。
だが、変革の引き金である可能性は高い。
「殿下」
「何だ」
「それでも、選びますか」
彼は迷わない。
「ああ」
短い答え。
合理性を捨てた、選択。
空の透明な星が、ゆっくりと回転する。
選別は、まだ始まったばかりだった。