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「行こう、ヴァロフェス!!」
「あ、ああ……」
ヴァロフェスの返事が終わるよりも早く、彼の手を掴み取るミーシャ。
そして、急勾配の砂丘をかけ上ってゆく。
「俺達、何とか助かりそうだな」
ヴァロフェスとミーシャをはちきれんばかりの笑顔で出迎えるグレッド。
「神々に見放されたかと内心、ヒヤヒヤしていたが取り越し苦労ですみそうだ」
グレッドの指し示す方角をヴァロフェスは目で追いかける。
荒涼とした景色の中にあったのは、今や眩いばかりの緑地。
その真ん中には、小さな湖があり、陽を反射して鏡のようにきらきら、輝いていた。
「良かったな、ミーシャ……」
仮面に覆われた顔の口元をほころばせ、ヴァロフェスは少女を振り返る。
まだ、砂漠を抜け切ったわけではない。しかし、ミーシャの一族を守るための戦いは、間違いなく勝利に向かっていると思えた。
「違う……」
ミーシャの唇から毀れ堕ちたのは、殆ど聞き取れないような、小さな喘ぎ声。
「あそこは、私達が……、そんな馬鹿な……」
「ミーシャ?」
ヴァロフェスは首を傾げ――、ミーシャの表情の変化にハッと息を飲む。
その顔色は、まるで死人のような蒼白だった。
オアシスを見下ろす瞳は大きく見開かれ、全身を小刻みに震わせている。
目の前に現れた小さな楽園の姿に、ミーシャは明らかに怯えていた。
「やったぁ!! 皆、水だ!! 水が飲めるぞーっ!!」
そんな族長の様子のは気付かず、歓喜に沸きかえる子ども達。
「ま、待て!!」
得体の知れない焦燥に駆られ、ヴァロフェスは呼びかける。
「ミーシャの様子がおかしい!! しばし、待て!!」
しかし、飢え、渇き切った子ども達の耳に制止の言葉は届かない。
誰とはなく、わっ、と歓声をあげ、オアシスを目指して全力で走りはじめる。
「くっ……!!」
口元を歪め、《青い風》達の後を追うヴァロフェス。
辿り着いたオアシスを支配していたのは、死んだような静寂。
勢いよく湖に飛び込んだ子ども達の跳ねあげる水しぶきの音がそれをかき消していた。
息を切らせながら、ヴァロフェスは湖の畔に立ちつくしていた。
「よう、客人」
湖の中から日焼けした顔で呼びかけるグレッド。
「一緒に水浴びでもどうだ? 気持ちがいいぞ?」
「ダメよ、グレッド!!」
ヴァロフェスが警告を発するよりも早く、殆ど悲鳴のような少女の声がオアシスに響く。その声に笑顔で水浴びをしていた子ども達も、水袋を詰め代えようとしていた老人達も驚いたような表情で動きを止める。
「ど、どうしたんだ? 俺はただ……」
「みんなも!! 早く、この場所から離れるの!!」
困惑し、目を丸くするグレッド。
顔面蒼白のまま、年相応な少女の口調でミーシャは叫び続ける。
「ここはダメ!! ここは、ここは私達が――、」
皆殺しにされた場所なのッ……!!
#現代ファンタジー
るるくらげ
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