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放課後。
ドアは静かに開いた。
「……失礼します」
「どうぞ」
生徒は座ると、少しだけ考えてから話し始めた。
「さっきまで普通だったのに」
「うん」
「急に、どうでもよくなるときがあるんです」
日下部はそのまま聞く。
「友達と話してても、ゲームしてても、授業でも」
言葉を選ぶ。
「急に、全部どうでもいいっていうか」
少し眉を寄せる。
「楽しくないわけじゃないのに、意味なく感じるというか」
日下部は短く返す。
「切り替わる感じか」
「はい」
すぐに頷く。
「スイッチ切られたみたいに」
少し笑う。
「で、そのあと普通に戻るんです」
「戻る」
「はい。だから余計よく分からなくて」
日下部は少しだけ考える。
「それ、壊れてるわけじゃない」
生徒が顔を上げる。
「え」
「処理の問題」
短く言う。
「処理」
「ずっと同じテンションで感じ続けるの、人は無理だから」
生徒は黙る。
「一回、感覚を切る」
続ける。
「負荷を下げるために」
生徒は少し考える。
「じゃあ、休んでるみたいな感じですか」
「近い」
日下部は頷く。
「ただ、急だから違和感が出る」
生徒は息を吐く。
「ちょっと怖かったんです」
「だろうな」
日下部は言う。
「“何も感じない状態”になると、不安になる」
生徒は小さく頷く。
「でも、それ自体は異常じゃない」
短く言う。
「むしろ、調整してる」
生徒は黙る。
「じゃあ、放っておいていいんですか」
「基本はいい」
日下部は答える。
「無理に戻そうとしない」
「戻そうとすると?」
「余計にズレる」
生徒は少し笑う。
「それ、やってました」
「だろうな」
日下部は続ける。
「ただ」
少しだけ間を置く。
「頻度が増えすぎたり、戻らなくなったら別」
生徒は顔を上げる。
「そのときは?」
「ちゃんと休むか、誰かに話す」
短く言う。
生徒はゆっくり頷く。
「今は、たまにです」
「なら問題ない」
即答する。
生徒は少し肩の力を抜く。
「なんか、変だと思ってました」
「変ではある」
日下部は言う。
「でも、壊れてるわけじゃない」
生徒は立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「どうでもよくなるのも、ちゃんと意味あるんですね」
「ある」
短く答える。
ドアが閉まる。
感情が切れる瞬間は、空白じゃなくて、調整の時間だ。
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