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3 - 第3話 転生者の目覚め

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2025年10月11日

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眩しい光が、暗闇を裂いた。

どこまでも静かな場所で、アレクシスはゆっくりと息を吸い込む。

重いまぶたを開くと、そこは見知らぬ世界だった。

青く透き通る空。見慣れぬ建物。遠くから響く機械の音。


――ここは、あの国ではない。


彼は確かに、あの日“約束の庭”で終わりを迎えたはずだった。

剣と炎。崩れ落ちる白い花。

最期に見たのは、腕の中で静かに微笑みを浮かべた青年の顔――「また会おう」と言いながら、手を伸ばしたあの光景。

それなのに、今、なぜ自分はここにいるのか。


周囲を見渡す。

近代的なビル、走る車、見慣れぬ服を着た人々。

世界は、時間そのものが変わっていた。

冷たい風が頬を撫で、彼はようやく自分の身体の重さを感じる。

夢ではない。

これは――転生なのだ、と理解した。


アレクシスはふらつきながら歩き出した。

足元はまだ不安定で、視界が霞む。

信号が変わる音、人のざわめき、遠くのサイレン。

それらすべてが彼の知らぬ世界のリズムだった。


そして、不意に――。

タイヤの軋む音。

視界の端から、赤い車が突っ込んでくる。

避ける間もなく、アレクシスの身体は地面に弾き飛ばされた。


時間が止まったように感じた。

耳鳴りの向こうで、誰かの声がする。


「……大丈夫ですか!? 聞こえますか!」


その声を聞いた瞬間、アレクシスの胸の奥で、何かが弾けた。


――知っている。この声を。


世界が揺れる。

朦朧とした視界の中で、彼は見上げた。

そこにいたのは、一人の青年。


白い息を吐き、必死に救急車を呼ぶ姿。

短く整えられた黒髪、透けるような肌。

その瞳の奥に宿る、懐かしい光。

アレクシスの唇が、震えた。


「……ましろ」


声にならないほど小さく、それでも確かにその名を呼んだ。

誰も知らない名を。

彼の魂だけが覚えている名を。


青年――真白は気づかない。

ただ「しっかりしてください!」と声をかけ、彼の手を強く握った。

その掌の温度に、アレクシスの記憶が洪水のように溢れ出す。


白い花の庭。

崩れ落ちる塔。

血に染まった空。

そして、約束の言葉。


“もし魂が再びこの世界を渡るなら、もう一度、君を見つける”


アレクシスの目から涙がこぼれた。

それは痛みではなく、確信だった。

彼は――ようやく見つけたのだ。


救急車のサイレンが近づく。

真白は医療スタッフに彼を引き渡しながら、どこかで見覚えのあるような不思議な感覚に包まれていた。

あの金色の髪、深い青の瞳。

絵の中で何度も描いた“誰か”と、あまりに似ている。


だが、そんなはずはない。

現実にそんな人はいない。

自分が作り出した幻想のはずだ。


――そう、思いたかった。


病院の前。

搬送されていくストレッチャーの上で、アレクシスは最後に小さく微笑んだ。

“君に会えた”と、その瞳が告げていた。


夜が訪れ、雨が降り始める。

真白はその夜、眠れなかった。

胸の奥で何かが呼吸している。

名前のない感情。

夢と現実の狭間で、何かが確かに動き出していた。


――それが再会のはじまりだと、まだ彼は知らない。


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