テラーノベル
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昼休みの終わり。
まだ少しだけ教室がざわついている時間。
生徒は椅子に座るなり言った。
「頑張れって言葉、嫌いなんです」
遥は特に反応しない。
「別に、悪い意味で言ってる人がいないのは分かるんです」
机を指でなぞる。
「応援してくれてるんだなってのも」
一拍。
「でも」
少しだけ眉を寄せる。
「なんか、苦しくなる」
遥は静かに聞いている。
「もう頑張ってる時に言われると」
言葉を探す。
「これ以上どうすればいいんだろって思う」
教室の外で誰かが笑う声がする。
「あと」
小さく続ける。
「頑張れって言われると」
間。
「頑張れない自分が悪いみたいに聞こえる」
沈黙。
「考えすぎですか」
遥は少しだけ視線を上げる。
「普通だ」
短い。
生徒は少し驚く。
「そうなんですか」
「その言葉は」
遥はゆっくり言う。
「雑だからな」
一拍。
「意味が広すぎる」
教室は静か。
「応援のときもある。命令のときもある」
机の端を軽く触る。
「期待のときもある。責任を押すときもある」
一拍。
「全部同じ言葉だ」
生徒は黙って聞いている。
「だから」
遥は続ける。
「聞く側が、全部背負う必要はない」
生徒の目が少し動く。
「応援なら受け取れ」
一拍。
「命令なら捨てろ」
静かな声。
生徒が少し笑う。
「そんな簡単にできないですよ」
遥は肩を少しだけすくめる。
「言葉は投げられるものだ」
机を軽く叩く。
「拾うかどうかはお前が決めろ」
沈黙。
生徒は少し考える。
「じゃあ」
顔を上げる。
「頑張れって言われたら」
少し笑う。
「これは応援のやつかなって考えればいいんですか」
遥は短く答える。
「雑でいい」
一拍。
「深く考えるほど疲れる」
生徒は息を吐く。
少し軽くなった顔。
「分かりました」
椅子を引く。
立ち上がる前に言う。
「遥さんは言わないですね」
遥はペンを回す。
「何を」
「頑張れ」
少し間。
遥は答える。
「必要なときだけ言う」
生徒は聞く。
「どんなときですか」
遥は少しだけ考える。
そして言う。
「もう少しで届きそうなやつに」
短い。
生徒は小さく笑う。
「じゃあ、まだ言われなさそうですね」
遥は返す。
「今はな」
扉が開く。
昼休みが終わるチャイムが鳴る。
頑張れ、という言葉は
便利で、雑で、重い。
だから遥は
滅多に使わない。
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