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ゆぴ
67
「……最悪」
誰にも聞こえない声で呟く。
好きになることより。
好きになった後の自分の方が。
ずっと怖かった。
家へ向かう道を歩く。
信号。
商店街。
コンビニの明かり。
見慣れた景色。
頭の中だけが落ち着かない。
何度も。
何度も。
さっきの会話を思い出してしまう。
『俺、お前のこと好きなんだけど』
馬鹿だと思う。
あんなの。
普通に言うことじゃない。
もっと考えろ。
もっと隠せ。
もっと警戒しろ。
そう思うのに。
胸の奥のどこかが、その言葉を何度も反芻していた。
嫌になる。
自分が。
気持ち悪い。
家が近づく。
足が重くなる。
自然と表情が消えていく。
門。
玄関。
明かり。
遥は深く息を吐いた。
考えるな。
切り替えろ。
いつも通りだ。
扉を開ける。
「ただいま」
返事はない。
けれど誰かがいる気配はあった。
遥はそのまま自室へ向かう。
早く一人になりたかった。
今日は特に。
何も考えたくなかった。
ドアノブに手をかけた時だった。
「帰るの遅かったな」
声。
遥の身体が止まる。
振り向く。
颯馬が廊下の壁にもたれていた。
いつからいたのか分からない。
スマホを弄りながらこちらを見ている。
「別に」
「別に、ね」
興味なさそうな声。
けれど視線だけは妙に鋭い。
「学校楽しかった?」
「普通」
「ふーん」
短い沈黙。
遥は早く部屋へ入りたかった。
だが颯馬は動かない。
「最近」
ぽつりと言う。
「機嫌いいよな」
遥の眉が僅かに動く。
「は?」
「前より分かりやすい」
「知らねぇよ」
「そうか」
颯馬はスマホの画面を消した。
それだけなのに。
空気が少し変わる。
「まぁいいや」
笑う。
楽しそうでもない。
ただ何かを観察しているような顔だった。
「その顔、いつまで続くかな」
意味が分からない。
聞き返そうとした頃には。
颯馬はもう歩き去っていた。
一人残される。
遥はしばらく動かなかった。
胸の奥がざわつく。
嫌な予感。
理由はない。
でも。
昔から。
こういう感覚は大体当たる。
部屋へ入る。
ドアを閉める。
ベッドに腰を下ろす。
スマホが震えた。
反射的に画面を見る。
日下部だった。
『無事帰った?』
たった一行。
それだけ。
遥は画面を見つめる。
数秒。
数十秒。
返信欄を開く。
閉じる。
また開く。
指が止まる。
何て返せばいい。
分からない。
結局。
『帰った』
それだけ送った。
すぐに既読がつく。
そして。
『そっか』
短い返事。
それだけなのに。
胸の奥が少しだけ軽くなる。
その感覚に気づいた瞬間。
遥は顔をしかめた。
「……だから嫌なんだよ」
呟く。
誰もいない部屋。
返事はない。
けれど。
スマホの画面だけが静かに光っていた。
コメント
1件
うわ、第6話……読み終わったあと、胸の奥がぎゅっとなったよ。遥の「だから嫌なんだよ」って呟き、すごく刺さった。好きって気持ちに気づくたびに自分を責める感じ、すごくリアルで切なかった……。颯馬の不気味な観察っぷりもヤバくて、嫌な予感がぷんぷんする。日下部からの「そっか」の短い返信で少し軽くなる遥の心情、すごく繊細に描かれてて、まるで一緒にドキドキしてるみたいだった。次が気になるよ……!