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夜の街のネオンが、濡れたアスファルトに映り込み、遥の視界をちらついた。腕や肩に軽く触れる手を拒まず、けれど心はどこか遠くを漂う。
「……いいのかよ、こんなことして」
誰に向けて言うでもなく、つぶやいた。声がかすれて、また自分の耳に戻ってくる。
笑う相手は無邪気で、悪意はない。だが、遥はそれすら軽く扱われたい衝動に逆らえず、無理に笑い、無理に求める。
触れられるたび、胸がざわつく。嫌悪と快感が入り混じり、目の奥が熱くなる。
「どうせ、俺なんか……」
言葉にする前に、また手が伸び、身体が重なり、痛みと快感が背中を走る。
数日間、同じ行為を繰り返して、遥の中の境界は崩れ、自己否定はさらに深まった。
心の奥で、わずかに日下部の顔を思い出す瞬間もある。
でも、その思い出はすぐに「裏切った」自分の行為で覆い隠され、胸に冷たい痛みを残すだけだった。
身体を安売りしながら、遥は無意識のうちに問いかける。
「……誰か、俺のこと本当に気にかけるか?」
答えは得られない。誰も答えてはくれない。ただ、夜の街のざわめきだけが返ってくる。
夜は、底が抜けていた。
終電の終わった駅前を抜けるたび、
俺はただの物みたいに動く。
人の顔は覚えていない。
言葉も、呼び名も、記憶にならない。
汗と安い香水の匂いが、
肌に染みては消えないまま。
何度目だろう。
指先が麻痺していくたび、
俺が俺じゃなくなる。
笑えって言われれば、笑った。
どうでもいい。
もう誰にも触れられない場所に、
自分を落としていく。