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日下部の相談室3

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日下部の相談室3

11 - 第11話 助けてもらうと、負けた感じがする

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2026年02月18日

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放課後の教室は半分だけ明るく、半分はもう夕方だった。

カーテンが揺れるたび、机の上の影が少しずつ形を変える。


ドアが開いて、同じ制服の生徒が入ってきた。

ためらいはあるが、迷いはない歩き方だった。


「……今いい?」

「いい」


日下部は椅子に座ったまま答える。

机の上には何も出していない。ノートもペンもない。

向かいに座った生徒は、すぐに本題に入った。


「頼るのが嫌なんじゃなくて」


そこで一度止まる。


「頼ると、上下できる感じがする」


日下部はすぐに返さない。

数秒置いてから、短く聞く。


「誰と」

「誰でも」


即答だった。


「助けてもらった瞬間、

下に入った感じになる」


机の端を指で押す。


「相手はそんなつもりないの、分かってるんですけど」

「うん」

「でも、なんか……

借りができるっていうか」


言葉を選ぶ。


「対等じゃなくなる」


日下部は少しだけ姿勢を変えた。


「対等でいたいのか」

「いたいです」


間髪入れず返る。


「じゃないと、

関係が変わる気がして」


日下部は窓の外を見る。

運動部の声が遠い。


「変わるよ」


あっさり言う。

生徒が顔を上げる。


「変わる?」

「助けてもらったら、

その瞬間だけ、バランスは動く」


机の上を軽く叩く。


「でも、固定はされない」

「……固定される感じする」

「それ、

自分で固定してる」


静か。


「借りを返そうとするだろ」

「します」

「すぐ」

「……します」

「それで対等に戻そうとする」


日下部は続ける。


「でも、

助ける側って、

そんな計算してないこと多い」


生徒は黙る。


「頼った側だけが、

上下気にしてる」


しばらく沈黙。


「……負けた感じ、するんですよ」


小さく言う。


「何に」

「分かんない」


正直だった。


「できなかった自分に、かな」


日下部は頷かない。


「できなかった時点で、

もう勝ち負けじゃないだろ」

「……」

「できないときに、

手借りただけ」


淡々。


「それで下になるなら、

誰も助けられない」


窓の外で、ボールが転がる音。


「対等ってさ」


日下部が続ける。


「同じ強さって意味じゃない」

「え」

「同じ位置に戻れるかどうか」


短い沈黙。


「助けたあと、

普通に戻れるなら、

それで対等」


生徒は机を見つめる。


「……戻れない気がする」

「戻る気ないからだろ」


刺すようではないが、直線的だった。


「借り作ったままにしとくの、

嫌なんだろ」

「嫌です」

「だから上下になる」


日下部は肩をすくめる。


「一回くらい、

借りのままでもいい」

「……気持ち悪い」

「慣れないだけ」


夕方の光が、少し赤くなる。


「頼るの、下に入ることじゃない」


日下部は言う。


「一瞬、

重心預けただけ」


生徒は小さく息を吐く。


「……それなら」


立ち上がりかけて、止まる。


「次、頼ったあと、

すぐ返さなくてもいいですか」

「いい」

「忘れても?」

「向こうが忘れる」


少しだけ、空気が緩む。


「……対等、保てるかな」

「保つもんじゃない」


日下部は視線を上げる。


「戻るもん」


生徒は頷き、ドアへ向かう。

出る直前、振り返る。


「負けた感じ、消えると思います?」

「すぐは無理」


日下部は答える。


「でも、

勝ち負けじゃないって分かれば、

そのうち消える」


ドアが閉まる。

教室には、夕方の色だけが残った。

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