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#読み切り
ドアが開く。
相談者は少しだけ笑って言った。
「“いい人だよね”で終わる」
蓮司は椅子を引く。
「誰に言われる」
「クラスでも、友達でも。嫌われてはない。でも誘われないし、深くもならない」
「距離は?」
「一定。近くも遠くもない。ずっと同じ」
蓮司は机に指を置く。
「それ、安定してるってことだな」
「でも上がらない」
「上げる動きしてない」
相談者は眉を寄せる。
「してない?」
「嫌われない動きはしてる。でも踏み込んでない」
「踏み込むって」
「相手に“判断させる材料”を出すこと」
「判断?」
「好きかどうか、合うかどうか。材料がないと評価も動かない」
相談者は少し黙る。
「無難にしてる」
「だろうな。無難は減点されない代わりに、加点もない」
「じゃあどうすればいい」
「一つでいいから“癖”出せ」
「癖?」
「意見でも、笑い方でも、話し方でもいい。“こいつはこういうやつ”って引っかかりを作る」
「嫌われたら?」
「その分、刺さるやつも出る。全員に好かれる状態は、誰にも選ばれない状態に近い」
相談者は小さく息を吐く。
「怖いな」
「普通。ただ今は、“安全に止まってる”だけ」
少し沈黙。
「具体的に何やる」
「全部変えなくていい。一個だけ変える」
「例えば」
「話すとき、一回だけ自分の意見入れる。“俺はこう思う”って短く」
「今まで避けてた」
「だろうな。だから印象が平ら」
相談者は机を軽く叩く。
「それで変わる?」
「少なくとも“何も分からない人”ではなくなる」
「……それはでかいかも」
「あと、断ること」
「え?」
「全部受けるな。一回断むと輪郭が出る」
「感じ悪くならない?」
「理由を一言添えればいい。“今日は無理、明日ならいける”とか」
相談者は頷く。
「選んでる感じか」
「そう。選ばれる側だけやってると、関係は深くならない」
立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「今日やるなら?」
「一個だけ意見言う。あと一回断る」
「十分」
ドアが閉まる。
“いい人”は、悪くない。
ただ、それだけだと、誰の中でも特別にはならない。
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