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ドアが開く。
相談者は立ったまま言った。
「昨日まで普通だったのに、急に冷たくなった気がする」
蓮司は椅子を引く。
「何が変わった」
「返信が遅い。目も合わない。話しかけても短い」
「一人だけ?」
「うん」
蓮司は座る。
「最後に普通に話したのは」
「一昨日。帰りも一緒だった」
「そのあと何かあった」
「ない。……と思う」
少し沈黙。
「“急に”はだいたい急じゃない」
「え」
「前から小さい変化があって、気づいたのが今なだけ」
「そんなの分かんない」
「分からなくていい。今見るのは“現在の距離”」
相談者は視線を落とす。
「戻せる?」
「原因による。でもまずやるのは“詰めない”」
「聞かないの?」
「今の距離で詰めると、さらに下がる」
相談者は少し強く言う。
「でも気になる」
「気になるまま動くと失敗する」
間。
呼吸が浅くなる。
「じゃあ何もしない?」
「“量”を下げる」
「量?」
「話しかける回数、メッセージの頻度。半分にする」
「避けてるみたいになる」
「違う。“合わせてる”」
相談者は黙る。
「向こうに合わせるの、悔しい」
「勝ち負けの話じゃない。距離の調整」
「……」
「もう一つ。内容」
「内容?」
「軽くする。確認とか追及とか入れない」
「“なんかあった?”はダメ?」
「今はダメ。相手が答えるコスト高い」
相談者は小さく頷く。
「じゃあ普通に?」
「短く、軽く。反応が戻るか見る」
少し沈黙。
「もしこのまま戻らなかったら?」
「その時に初めて聞け。“最近ちょっと距離感じるけど、何かあった?”って一回だけ」
「一回だけ?」
「繰り返すと圧になる」
相談者は机を指で叩く。
「怖いな」
「怖いままでいい。今は“崩さない”が優先」
立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「今日やるなら?」
「回数減らす。軽く話す。聞かない」
「それでいい」
ドアが閉まる。
距離は、押しても戻らない。
合わせたときだけ、少しだけ戻ることがある。
#読み切り