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王宮の観測塔は、今でも夜ごとに開かれる。
だが以前ほど、緊張した空気はない。
学官たちは星を測り、記録し、議論する。
ただし一つだけ、いまだに測れないものがある。
――無色星。
存在は確認できる。
数も増えている。
だが、誰にも色が見えない。
「殿下」
観測塔の入口で、学官が頭を下げた。
「本日の観測記録です」
王太子は受け取る。
紙には数字が並ぶ。
国力指数、安定。
金色、正常。
青星、増加。
そして。
“未観測星:推定二十三”
「増えているな」
「はい。ですが依然として発色なし」
「問題は?」
「……ありません」
学官は少しだけ困った顔をする。
「ただ、学問として説明が難しいだけで」
王太子は笑った。
「それは仕方ない」
世の中には、説明できないものもある。
塔の上階へ上がる。
そこに、エリュネがいる。
夜空を見ていた。
「寒くないか」
「平気です」
彼女は振り向く。
相変わらず色は出ない。
だが、彼はもう気にしない。
「今日も星が増えた」
「そうですか」
「君の星だ」
「違います」
即答。
「私のものではありません」
彼は隣に立つ。
「では何の星だ」
「分かりません」
エリュネは少し考える。
「ただ」
夜空を見る。
「消えません」
以前の金色の星は、よく消えた。
燃え尽きるように。
だが透明な星は違う。
「増えるだけです」
静かに。
気づかないうちに。
王太子はふと聞く。
「後悔していないか」
「何を」
「この選択を」
彼女は王宮に残った。
王太子の隣に。
愛せないと宣言したまま。
エリュネは少し考える。
「……分かりません」
正直な答え。
「ただ」
夜空を指す。
「今のところ、空は安定しています」
「国家的には成功だな」
「ええ」
しばらく沈黙。
風が吹く。
王太子は言う。
「私は君を愛している」
いつも通り。
特別な場面ではない。
エリュネは頷く。
「知っています」
「君は?」
「変わりません」
「そうか」
彼は少し笑う。
「ですが」
彼女は続ける。
「殿下が他の誰かを選ぶ未来は、望みません」
「……それは」
「選択です」
エリュネは空を見る。
「私は殿下を選びます」
色は出ない。
だが胸の振動はある。
彼は手を差し出す。
彼女は自然に取る。
昔は、それだけで金色が爆発した。
今は違う。
静かだ。
だが安定している。
観測塔の下で、学官の声が聞こえる。
「未観測星、また一つ増えました!」
誰にも見えない星。
誰にも色が分からない光。
だが確実に存在する。
王太子は空を見る。
「増えすぎたら困るな」
「なぜですか」
「説明できなくなる」
エリュネは少しだけ笑う。
ほんのわずか。
ほとんど分からない。
「それは、困りますね」
空には、また一つ星が増えていた。
観測されないまま。
静かに。