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教室のざわめきは、チョークの音と混じって遠くに聞こえていた。黒板に数式が並んでいるのを、目で追おうとする。けれど視界はぼやけて、痛みと疲労が意識を鈍らせる。
机に突っ伏したいのに、姿勢を崩したらすぐに視線が集まるのを知っていたから、背を丸めながら必死で耐える。
背中に服が擦れるたび、やけどの痕が軋み、喉の奥で息が詰まる。
……無意識に、唇が動いていた。
「……やだ……やめて……もう……」
自分の声だと気づいたときには遅かった。
隣の席の生徒が一瞬こちらを見て、眉をひそめ、そして口元を歪める。
「ねえ、今なんか言った?」
小声が、すぐ前の席に伝わる。
「『やめて』だって」
「なにそれ、夢でも見てんの?」
教室の空気がざわつき始めた。
遥は慌てて唇を閉じる。だが次の瞬間、胸の奥に溜まっていた言葉が漏れ出す。
「……ごめんなさい……俺が……全部……悪いから……」
数人の生徒が笑いをこらえきれず、振り返る。
「聞いた?『俺が悪い』だって」
「なに謝ってんの?授業中に」
遥の耳が赤く熱を帯びる。
声を押し殺そうとしても、思考がそのまま音になって外に溢れる。
「……もう……痛いのやだ……助けて……」
「……死にたい……でも死にたくない……」
「……生きてるの、意味ない……」
断片的な声に、前列の女子が肩を揺らして笑い出した。
「ねえ先生、なんか詩人みたいなこと言ってるんだけど」
教師は振り返ったが、眉を寄せただけで黒板に戻った。
「うわ、きも……」
「マジで病んでんじゃん」
「ほら、次なに言うのか聞いてみようぜ」
クスクスという笑いが広がる。遥は机の下で拳を握る。爪を失った指先が痛む。
もう言うな、と自分に命じる。だが意識は薄く、舌が勝手に動く。
「……生まれてこなきゃ……よかった……」
「……いなくなりたい……でも……怖い……」
「……ごめん……俺が……全部……」
「うっわ、本音タイム始まった!」
「録音したらバズるんじゃね?」
「死にたいって〜! でも死ぬの怖いって〜!」
爆笑が後ろから押し寄せる。
遥は必死で口を押さえるが、喉が勝手に震える。
「……もう、やめて……たのむから……」
だがその懇願すら、笑いのネタになる。
「おーい、『やめてください』だってさ!」
「じゃあ、もっと聞きたいからやめませーん」
クラス全体がざわめきに包まれ、孤独と羞恥が遥の頭を締めつけた。
助けはどこにもない。
声は止まらず、笑いは止まらず、ただ机の上で縮こまるしかなかった。