テラーノベル
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夜の校舎は静かだった。けれど、その静けさは安らぎではなく、音のない監獄だった。
窓の外はすっかり暗くなり、教室の時計はとっくに帰宅時間を過ぎている。
縄はまだ俺の手首に食い込んだままで、擦れた皮膚がじくじくと熱い。
廊下の先で、何人かの足音が響く。
一瞬、救いの気配かと思ったが──笑い声が混じっている時点で違うとわかる。
スマホのライトが俺の顔に直射され、次の瞬間、何度もシャッター音が鳴った。
「暗いとこ似合うな、標的くん」
「いいなあ、動けないから表情撮り放題」
その場で蹴られたり、シャツのボタンをわざと外され、胸や首元にペンで落書きされる。
一人が笑いながら動画をライブ配信していた。
コメント欄らしき文字がちらりと見える──《マジで哀れ》《この学校ヤバすぎ》──
でも、それは俺を救う声じゃない。
ただ面白がってるだけの観客席。
やがて彼らは満足したのか、「じゃ、後は勝手に帰れよ」と縄を解き、俺を廊下に放り出す。
その頃には校舎の玄関は施錠されていて、裏口から真っ暗な夜道に出るしかなかった。
冷たい風の中を歩く。
制服は水を吸って重く、足元はふらつく。
遠くで犬が吠える声がして、その音にすら背中を縮こまらせる。
脳裏では、さっきの動画や写真が、これからクラスだけじゃなく学校中に、いや、ネットの向こう側にまで広がっていく光景が鮮明に浮かぶ。
逃げ場は、どこにもなかった。
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