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#追放
#ファンタジー
王都の朝は、鐘の音で始まる。
だがその日の鐘は、いつもの祈りの音とは違っていた。
重く、長く、怒りを含んでいる。
王宮の窓からそれを聞いたとき、エリュネは少しだけ首を傾げた。
「珍しいですね」
隣にいた侍女が顔をこわばらせる。
「……神殿の招集鐘です」
「招集?」
「大司祭が民衆を集めるときの音です」
エリュネは窓の外を見る。
遠く、白い神殿の塔が朝日に光っていた。
その下に、すでに人が集まり始めている。
ざわめきが、風に乗って王宮まで届いていた。
その頃、神殿の大広間。
白い石柱の間に、民衆がひしめいていた。
商人、職人、兵士、貴族の従者。
誰もが同じ話をしている。
王宮外で星が生まれた。
しかも、無色の星。
「ありえない」
「王妃が星を生むはずだ」
「神の奇跡だろう?」
ざわめきは止まらない。
やがて、大司祭が現れた。
白金の衣。
老いた男だが、声はよく通る。
「静まれ」
群衆の声が一斉に止む。
大司祭はゆっくりと天井を見上げた。
そこには、神の象徴である星の紋章が描かれている。
「我々は長い間、空を見てきた」
低い声。
「星は神の祝福だ」
誰も反論しない。
「神は愛を祝福し、その証として星を与える」
それがこの国の信仰だった。
大司祭は続ける。
「だが最近、奇妙な話が広がっている」
広間がざわめく。
「王宮の外でも星が生まれた。
しかも色のない星だと」
彼は静かに首を振った。
「ありえない」
断言だった。
「星は神の奇跡。
人間の関係で生まれるものではない」
空気が張り詰める。
「もしそのような星があるとすれば」
大司祭はゆっくり言った。
「それは祝福ではない」
沈黙。
そして、はっきりと告げた。
「異常だ」
群衆がざわめく。
「神の秩序を乱すものだ」
その言葉は、すぐに街へ広がった。
無色星。
異常。
不吉。
言葉は形を変えながら、王都を巡る。
昼過ぎ、王宮。
会議室の空気は重かった。
神殿の使者が来ている。
黒衣の司祭が、冷たい声で言った。
「神殿の見解を伝えます」
王太子は黙って聞いていた。
「無色星は神の奇跡ではない。
ゆえに」
司祭は一瞬、言葉を選ぶ。
「王妃理論もまた、誤りです」
部屋がざわめく。
貴族の一人が立ち上がった。
「待て。
王妃制度を否定するのか」
「神殿はそう言っている」
司祭は淡々としていた。
「星は神のもの。
王族のものではない」
皮肉な言葉だった。
王太子は腕を組んだ。
「では」
静かな声。
「王宮外の星は何だ」
司祭は迷わない。
「偽物です。
観測の誤り。
あるいは不吉な現象」
王太子の目が細くなる。
「不吉?」
「神の秩序にないものです」
司祭は言った。
「神殿は調査を求めます。
特に」
視線が向く。
部屋の奥。
エリュネが静かに座っていた。
「王妃エリュネ殿」
司祭の声は冷たい。
「あなたの存在と無色星の関係を」
会議室が静まり返る。
エリュネは少しだけ考えた。
「関係はありません」
「本当に?」
「はい」
彼女の声は穏やかだった。
「星は人間の関係から生まれます」
司祭が笑う。
「それは信仰ではない。
ただの仮説です」
エリュネは首を傾げる。
「神殿の理論も仮説では?」
空気が凍る。
司祭の顔が歪んだ。
「神を疑うのか」
「いいえ」
彼女は答える。
「ただ、空を見ているだけです」
その言葉に、王太子は小さく笑った。
司祭はそれを無視した。
「神殿は警告します」
低い声。
「もし無色星が神の秩序を乱すものであれば」
視線はエリュネから離れない。
「排除されるべきです」
その言葉は、はっきりとした敵意だった。
会議が終わったあと。
王宮の回廊。
王太子はエリュネと並んで歩いていた。
「気にするな」
彼は言う。
「慣れています」
エリュネは答える。
確かにそうだった。
疑われること。
排除されること。
それは彼女にとって新しい経験ではない。
だが。
王太子は空を見る。
昼の青空。
星は見えない。
「神殿は動く」
「はい」
「貴族もだ」
「そうでしょうね」
エリュネは少しだけ笑った。
「空が変わったからです」
「空?」
「はい」
彼女は言う。
「星はもう、王宮だけのものではない」
遠くで、また鐘が鳴る。
王都のどこかで。
誰かが、誰かを選んだ。
それだけで。
空にまた一つ、無色の星が生まれていた。
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