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星は、長いあいだ「神の祝福」と呼ばれていた。
だが王宮にとっては、それだけではなかった。
星は記録される。
数えられる。
配置も測られる。
そして、その数は――国力として扱われていた。
王宮観測塔の最上階。
円形の大きな机の上に、夜空の地図が広げられている。
無数の印が打たれていた。
金色、青、緑。
そして最近になって増え始めた、白い印。
無色星。
「増えすぎています」
学官が言った。
「三ヶ月前の二倍」
貴族たちが顔を見合わせる。
「王宮外だけか」
「いいえ」
学官は指を動かす。
「農村」
「港町」
「鉱山都市」
地図のあちこちに白点がある。
「国全体です」
沈黙が落ちる。
最初に口を開いたのは、財務卿だった。
「……ならば問題だ」
太った男は腕を組む。
「問題?」
別の貴族が眉を上げる。
「星は資源だ」
財務卿は当然のように言った。
「資源?」
「星の数は国家の安定を示す」
それは古くからの理論だった。
星が多い国は、関係が安定している。
つまり、社会が安定している。
戦争も少ない。
反乱も少ない。
だから各国は、互いの星を観測していた。
「つまり」
財務卿は続ける。
「星が自由に生まれるなら」
指が地図を叩く。
「管理が必要だ」
ざわめきが起こる。
「管理?」
「誰が」
財務卿は迷わない。
「国家だ」
学官が顔をしかめる。
「ですが星は人間の関係から――」
「だからだ」
財務卿は遮る。
「関係が国を作る」
貴族の一人が笑った。
「つまり恋愛も国家管理か?」
「極端な話ではない」
財務卿は真顔だった。
「結婚制度。
血統管理。
それらは昔から国家が関与している」
確かにその通りだった。
だが。
「友情は?」
学官が言う。
「家族は?」
財務卿は少し黙った。
「……研究が必要だな」
別の貴族が机を叩く。
「研究などしている場合か!」
声が響く。
「星が全国に広がっている。
神殿は怒っている。
王妃制度も揺らいでいる」
彼はエリュネをちらりと見た。
「このままでは国家が混乱する」
部屋の視線が集まる。
エリュネは静かに座っていた。
いつものように、何も色を持たない。
「王妃殿」
年配の貴族が言う。
「あなたはどう考える」
エリュネは少し考えた。
「星は」
ゆっくりと言う。
「管理できないと思います」
財務卿が眉をひそめる。
「なぜ」
「関係だからです」
彼女は地図を見る。
白い点。
無数にある。
「人間は自由です」
「自由?」
「はい」
エリュネは言う。
「誰を好きになるか。
誰と友人になるか。
誰と家族になるか。
それは決められません」
沈黙。
財務卿が鼻を鳴らす。
「理想論だ」
そのとき。
「いや」
王太子が口を開いた。
彼は地図を見ている。
「現実だ」
財務卿が振り向く。
「殿下?」
「星は増えている」
王太子は言う。
「命令したわけでもない。
管理したわけでもない」
それでも。
「生まれている」
部屋は静まり返る。
「つまり」
彼はゆっくり言った。
「国家の外で起きている」
それは、王権にとって危険な事実だった。
国家が支配できない現象。
財務卿は顔をしかめる。
「では放置するのですか」
「違う」
王太子は答える。
「理解する」
短い言葉だった。
エリュネは少しだけ彼を見る。
彼は気づかない。
ただ空を見ていた。
昼の空。
星は見えない。
だが確実にそこにある。
王宮の外でも。
王宮の中でも。
そしてその夜。
観測塔の記録が更新される。
無色星。
また一つ増えた。
場所は王都。
市場の近く。
誰が生んだのかは、誰にも分からない。
麗太
海の紅月くらげさん