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「今日は、何が一番しんどい?」
そう聞かれて、相談者は少し困った顔をした。
「……分からないです」
「分からない、か」
「はい。
家で何かあったわけでもないし、
友達と喧嘩したわけでもなくて」
間を置いて。
「なのに、朝になると動けなくなる」
日下部は、否定も分析もしない。
「理由が見つからないと、不安になる?」
「なります」
即答だった。
「“甘えてるだけじゃないか”って思うし」
「誰に?」
「……家族に、です」
相談者は視線を落とす。
「家では、
元気そうに見えるらしくて」
「演じてる?」
「多分」
苦笑が混じる。
「心配かけたくないし、
説明するのも面倒で」
「説明できない感じ?」
「そう。
“つらい”って言っても、
“何が?”って聞かれるじゃないですか」
「うん」
「それに答えられない自分が、
すごくダメな気がして」
日下部は、少しだけ声を低くした。
「それ、性格の問題じゃない」
相談者が顔を上げる。
「感情って、
必ずしも言語化できる形で来ない」
「……」
「特に、ずっと我慢してきた人ほど」
相談者の指先が動く。
「友達にも、
あんまり言えないです」
「理由は?」
「重くなるから」
迷いのない答えだった。
「自分が話すと、
場の空気が沈むって分かってる」
「空気、読めるんだな」
「読めすぎるくらい」
日下部は、少しだけ笑った。
「それで、
明るい側に回ろうとする?」
「はい」
「で、帰ってから一気に疲れる」
「……そうです」
しばらく沈黙。
「性格的にさ」
日下部が続ける。
「“大丈夫な人”でいる時間、長くない?」
相談者は、ゆっくりうなずいた。
「その役、
一回降りるだけで体調崩すこと、ある」
「え」
「今まで無理して回してた分が、
まとめて来る」
相談者は、息を吐いた。
「じゃあ、
自分が弱いわけじゃないんですか」
「むしろ逆」
日下部は即答した。
「周りに合わせられる強さがあるから、
今、反動が来てる」
相談者の表情が、少しだけ緩む。
「理由がはっきりしない不調って」
「はい」
「“怠け”じゃなくて、
“調整中”のことが多い」
相談者は小さく笑った。
「調整中、ですか」
「そう。
壊れてるんじゃなくて、
整え直してる途中」
しばらくして、相談者が言った。
「それなら……
少し休んでもいい気がします」
「うん。
その感覚、大事にしろ」