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昼休みの学食は、以前より人が多くなった気がした。
凪が席に座ると、すぐに誰かが声をかける。
「凪」
振り向くと、見たことのある顔だった。沙希の友達の誰かだ。名前は覚えていない。
「飲み物買ってきて」
凪は頷く。
財布を出して立ち上がる。
「何がいい?」
女は少し考えるふりをして、笑う。
「みんなの分」
周りのテーブルから声が飛ぶ。
「コーラ」
「オレンジ」
「あと俺コーヒー」
「俺も」
注文はすぐに増える。
凪は何も言わない。
スマホを取り出して、メモを打つ。
その様子を見て、誰かが笑う。
「ちゃんと覚える気なんだ」
「偉いじゃん」
凪はメモを閉じる。
「すぐ戻る」
学食の外の自販機まで走る。
戻るころには、テーブルの空気はもう別の話題になっていた。
凪が袋を机の上に置く。
「コーラ」
「オレンジ」
「コーヒー」
一つずつ渡す。
誰も礼は言わない。
当然みたいに受け取る。
最後に残った一本を、凪は自分の前に置く。
そのとき、男の一人が言った。
「あ、それ俺」
凪はすぐに差し出す。
「ごめん」
男は笑う。
「別に」
缶を開けながら、蒼の方を見る。
「蒼。ほんと便利だな」
蒼はスマホを見ていた。
顔も上げない。
「そう?」
男は言う。
「だってさ」
凪の方を指で示す。
「何でもやるじゃん」
凪は椅子に座る。
パンを開ける。
食べる前に、蒼が言った。
「凪」
凪は顔を上げる。
「うん」
蒼は言う。
「俺のノート。あとでコピーしといて」
凪は頷く。
「いいよ」
蒼はまたスマホに視線を落とす。
それだけだった。
午後の講義のあと。
凪は図書館のコピー機の前に立っていた。
蒼のノートは思ったより分厚い。
ページを一枚ずつめくる。
コピー機が低い音を出す。
後ろで誰かが言う。
「あ、いた」
振り向くと、見覚えのある顔が二人。
沙希の友達だった。
「凪」
一人が手を振る。
「ちょうどいい」
凪はコピーを止める。
「どうしたの」
女はスマホを見せる。
「これ印刷して」
画面にはレポートのPDF。
「今日出すやつ」
凪は頷く。
「いいよ」
女は笑う。
「助かる」
もう一人が言う。
「ほんと便利だよね」
凪はUSBを差す。
プリンターが動き出す。
紙が出てくる。
二人は後ろで雑談を始めている。
凪は何も言わない。
ただ紙を揃える。
ホチキスで留める。
「はい」
差し出す。
女は受け取る。
「ありがと」
そのまま去っていく。
図書館を出ると、夕方だった。
蒼は校舎の壁にもたれて立っていた。
凪を見る。
「終わった?」
凪は頷く。
「コピー。あとレポート印刷」
蒼は「ふーん」と言う。
「忙しいな」
凪は笑う。
「まあ」
蒼は少し黙ってから言う。
「別に断ればいいのに」
凪は少し考える。
それから言う。
「蒼の友達だし」
蒼は笑った。
小さく。
「俺の友達じゃない」
凪は首を傾げる。
「沙希の?」
蒼は肩をすくめる。
「どうでもいい」
しばらく沈黙。
風が吹く。
蒼は凪を見る。
「でも、やるんだろ」
凪は頷く。
「頼まれたら」
蒼は少しだけ笑う。
冷たい笑いだった。
「ほんと、使い道あるな」
凪は何も言わない。
ただ少しだけ笑った。
それは、嬉しそうにも見えた。