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講義の終わり頃になると、凪のスマホはよく震えるようになった。
机の中で、短く振動する。
凪はノートを書きながら、そっと画面を見る。
メッセージ。
「凪、今どこ?」
別の通知。
「コンビニ行ける?」
さらにもう一つ。
「講義終わったら来て」
全部、同じグループの名前だった。
沙希の友達のグループチャット。
凪は少しだけ考える。
それから
「今講義」
とだけ打つ。
すぐに返信が来る。
「終わったらでいい」
「急いでない」
「飲み物買ってきて」
凪は
「わかった」
と送る。
講義が終わると、凪はすぐ席を立った。
学食の端のテーブル。
そこに六人ほど集まっていた。
凪が近づくと、誰かが手を上げる。
「あ、来た」
袋を机に置く。
「コーラ二つ」
「お茶」
「カフェオレ」
一つずつ渡す。
誰も凪を見ない。
普通に受け取る。
その中に蒼もいた。
蒼は椅子に深く座って、スマホをいじっている。
凪が最後の缶を渡すと、蒼が言った。
「サンキュ」
凪は小さく頷く。
「うん」
席に座ろうとしたとき、男の一人が言う。
「あ、凪」
凪は止まる。
「なに」
男はノートを机に置く。
「これ写させて」
凪は頷く。
「いいよ」
別の女が言う。
「じゃあ私も」
さらにもう一人。
「俺も」
ノートはすぐ三冊になった。
凪はそれを抱える。
「コピーしてくる」
誰かが笑う。
「ほんと助かる」
「便利すぎ」
蒼はそれを見ている。
何も言わない。
ただ、スマホをいじりながら言った。
「終わったら戻ってこい」
凪は頷く。
「うん」
コピー室は少し混んでいた。
凪は列に並ぶ。
ノートを胸の前で抱える。
前の学生が振り向く。
「あれ」
少し笑う。
「蒼の犬」
凪は何も言わない。
ただ小さく笑う。
「違うよ」
そう言いながらも、否定する感じではなかった。
学生は面白そうに言う。
「じゃあ何?」
凪は少し考える。
それから言う。
「……頼まれてるだけ」
学生は笑う。
「同じじゃん」
順番が来る。
凪はコピー機にノートを置く。
ガラスの上にページを広げる。
ボタンを押す。
機械が低い音を出す。
その間に、スマホがまた震える。
画面を見る。
メッセージ。
「凪」
送信者は蒼。
凪はすぐ開く。
短い文章だった。
「ついでに俺のも」
写真が送られている。
ノートのページ。
凪は
「いいよ」
と返信する。
戻ると、テーブルの人数は少し増えていた。
凪はコピーしたノートを配る。
「ありがとう」
誰かが言う。
でも、すぐ別の会話に戻る。
凪が最後の一冊を渡すと、女の一人が蒼に言う。
「蒼。凪、借りていい?」
蒼は顔を上げる。
「何に」
女は笑う。
「買い出し。あとレポート」
蒼は少しだけ考える。
それから肩をすくめた。
「別にいいよ」
女は凪を見る。
「聞いた?」
凪は頷く。
「うん」
女は言う。
「じゃあ後で来て」
凪はまた頷く。
「わかった」
蒼はそれを見ながら、缶ジュースを一口飲む。
そして何気なく言った。
「順番な」
凪は首を傾げる。
蒼は笑う。
「みんな使いたいらしいから」
テーブルで小さく笑いが起きる。
凪は少しだけ考える。
それから言う。
「……うん」
困った顔ではなかった。
むしろ、少し安心した顔だった。