テラーノベル
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体育館裏の倉庫。鍵は壊れていて、閉めれば外からはほぼ見えない。
遥の腕を雑に引っ張り、三人はそのまま奥へ押し込んだ。
扉が閉まった瞬間、湿った空気が絡みつく。
「……ここ、誰も来ねぇしさ」
その言い方が、妙に嬉しそうだった。
怒ってるわけじゃない。
責めるでもない。
ただ、“この状況を楽しんでる”。
遥の背中が壁に叩きつけられ、埃が舞った。
呼吸より先に、胸の奥が縮こまる。
一人が顔を近づけてくる。
笑っているのに、笑顔ではない。
「お前さ……女子に囲まれてたとき、
どんな顔してたっけ? 嬉しそうだったよな?」
「……別に」
「別に、ねぇ。
“触られてビビってた”とか言うなよ?
あれ、どう見ても……その、さ──」
言葉を濁しながら、勝手に想像を膨らませていく。
その顔が気持ち悪いほど楽しそうで、遥の喉が閉じる。
「お前、知らねぇんだろ?
女子がどういうつもりでああいうことしてたか。
……“ああいうこと”だよな?」
曖昧でいやらしい含みだけを残し、
具体的には絶対に言わない。
その“言わない”が一番気持ち悪かった。
彼らの妄想は、すでに現実を侵食していた。
事実かどうかなんてどうでもいい。
“自分たちの理屈が真実であるべきだ”という歪み。
「なぁ、下のくせに……女子に触られたやつがいたら、おかしいと思わねぇ?」
そう言いながら、誰かが遥の腹を拳で突く。
強くない。けれど、人を壊すのに十分な角度。
「ぐ──」
声を出すより先に、二発目が来る。
三発目は脇腹。息が詰まり、視界が揺れた。
「ほら、やっぱ弱ぇじゃん。
あいつらにも“こんな感じでヤられてた”んだろ?」
そのたび、勝手に内容を補完するような言い方。
殴りながら楽しんでいるのは暴力そのものじゃない。
“遥が女子に触られた”という自分たちの妄想を確証に変えている行為だ。
「いいよなぁ……お前だけ。
下のくせに、“そういう空気”出して……さ」
蹴りが太ももに入り、足元が崩れそうになる。
肩を掴まれ、無理やり立たされる。
「逃げんなよ。
……逃げねぇよな? 下なんだから」
三人は言葉を続ける。
声量は小さく、しかし終始“ねっとり”している。
「女子に囲まれて、
嬉しかったんだろ?」
「そういう顔してた。
否定しても、俺らの方が分かる」
「お前さ、俺らより下なのに……
どうしてああいう扱い受けてんの? 不公平じゃね?」
妄想は完全に確信へ変わり、
“処罰”という建前で暴力が正当化されていく。
遥は何も言えない。
言葉を発すれば、その瞬間また捻じ曲げられる。
黙れば黙ったで、勝手な意味を付けられる。
どちらに転んでも逃げ場がない。
静かな倉庫に、遥の浅い呼吸だけが落ちる。
最後に一人が耳元でささやく。
「分かってんだろ?
……お前はずっと下だよ。
女子に囲まれたくらいで、変われると思うなよ」
遥の背が壁を滑り、尻餅をつく。
膝が震えて止まらない。
三人は満足げに笑い、扉を開けた。
光が差し込んだ瞬間、彼らの影が長く伸びる。
「また遊んでやるよ。場所、変えてもいいしな」
そして扉が閉まり、暗さが戻る。
その暗さに、遥だけが取り残された。
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