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昼休み、廊下。
女子グループの中心リーダー格の美桜が、遥の腕をつまんで引いた。
「ちょっと来て。逃げるなよ?」
教室の裏側、掲示板が影になる狭いスペース。
女子ばかり五、六人。
ほとんど壁のように遥を囲む。
その中心で、美桜がわざと大きめの声で言う。
「……ねぇ、あれ見た?
今日もまた男子に呼ばれてたんだって」
「ほんと“人気者”だねぇ遥。
いーなー、羨ましいわぁ?」
ひとつひとつの言葉が、明らかに嘘くさい“褒め”だ。
表情は笑っているのに、目だけが冷たい。
遥は視線を伏せる。
「……別に、俺は──」
「別にじゃないでしょ?」
口元を指でつままれる。抵抗した瞬間、別の女子が腕を押さえつける。
「じっとして。動くと痛いよ?」
柔らかい声のまま、爪だけが食い込む。
美桜が突然、遥の頬に顔を近づけた。
ほんの数センチ。
触れるか触れないか、ぎりぎりの距離。
周りの女子たちが一斉に騒ぐ。
「ちょ、やばくない? そういうの〜」
「写真撮ったら男子どう思うかなぁ?」
「“アイツら”、また変な妄想するんだろうね〜」
──わざとだ。
遥の肩が硬直する。
その怯えを、女子たちはさらに楽しむ。
美桜は頬に“軽く押し当てる”。
キスではない。ただの皮膚の接触。
だが、見ている側にはそう見える角度で。
「ほら、こんなんでも震えるんだ。
可愛いじゃん。ねぇ?」
頬に当てた手の力を少し強めて、視線を絡める。
「……やめてくれ」
言葉を出した瞬間、女子たちがクスクス笑った。
「“やめて”とか言っちゃった。
なんか……それっぽい〜」
「これ男子が見たら、
“遥って女より弱い下のくせに調子乗ってる”って思うよね?」
「てか、そう思わせた方が楽しいんだけど?」
完全に計算された残酷さ。
女子たちは、遥の恐怖なんてどうでもいい。
彼女らの狙いは──
陰キャたちが勝手な妄想で暴走する“燃料”を投げ込むこと。
「……あ、ねぇ。スマホ向けてる人いたよ?
見えてたかなぁ〜」
「陰キャの奴ら、
ああいうの大好きじゃん? “下のくせに女に囲まれてる”って」
「ねぇ、また妄想しちゃうよね。
ちょっと煽っとこっか?」
美桜が遥の顎をつかむ。
無理やり上を向かされ、目が合う。
そのまま──
口元すれすれで止める。
触れてはいない。
だが“見せつける”には十分すぎる距離。
女子全員がケラケラ笑った。
「見てたらウケるね。
“あいつら”今日また騒ぐよ」
「どんな顔するかなぁ?
楽しみなんだけど」
──遥の顔の横で、女子たちは嗤う。
最後に美桜が耳元でささやいた。
「あいつら……あんたがこうなると嬉しそうにするよ。
ほら、今日も来るでしょ? 絶対」
「だって、
“下のくせに女子に触られた”って思わせた方が、
あんたの状況、もっと悪くなるじゃん?」
「……壊れるの見てるの、面白いし」
遥の背筋が凍る。
女子たちはその震えを、
完全に“遊び”として扱っている。
「じゃ、また昼に。
……次はもう少し“わかりやすい”のしてあげよっか?」
囲みが解けた瞬間、遥は一歩も動けなかった。