テラーノベル
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「見るな」
その声は、確かに瀬那だった。
低くて、少し掠れた声。
耳元。
すぐ後ろ。
晴翔は反射的に振り向く。
誰もいない。
廊下。
窓。
通り過ぎる生徒。
ざわめき。
全部普通。
なのに。
心臓だけが、異常なくらい速かった。
「晴翔?」
美玲の声。
晴翔はゆっくり前を向く。
美玲は不安そうな顔をしていた。
でも。
その不安は、 “心配”じゃない。
“近づいてはいけないものを見る不安”。
晴翔は、その視線に耐えられなくなる。
「……ごめん」
掠れた声。
美玲は何も言えない。
ただ、スマホを握りしめている。
おすすめ欄。
もう、誰も逆らわない。
“出てきたものが正しい”。
そんな空気が、少しずつ出来上がっている。
晴翔は、逃げるみたいにその場を離れた。
階段。
渡り廊下。
人気の少ない旧校舎側。
息が苦しい。
スマホが震える。
止まらない。
ブブッ。ブッ。ブブブッ。
通知。
通知。
通知。
晴翔は壁にもたれながら画面を見る。
おすすめ欄。
【“隔離対象が取る典型行動”】
次。
【“孤立後、旧校舎へ向かう確率:87%”】
晴翔の血の気が引く。
何で。
何で分かる。
いや。
違う。
“分かってるから誘導してる”。
晴翔は、瀬那の言葉を思い出す。
『未来予測じゃない』
『思考を誘導してる』
喉が乾く。
その時。
旧校舎の窓ガラスに、誰かが映った。
黒い制服。
瀬那。
「……!」
勢いよく振り向く。
誰もいない。
でも今度は、見間違いじゃなかった。
ガラスには、確かに映っていた。
晴翔は、ゆっくり窓へ近づく。
古いガラス。
少し歪んだ反射。
映る自分。
そして。
自分のすぐ後ろ。
瀬那。
無表情。
静かな目。
晴翔の呼吸が止まる。
「瀬那……?」
小さく呟く。
ガラスの中の瀬那が、ゆっくり口を動かす。
『まだ見るな』
その瞬間。
ブツッ。
校内の照明が、一斉に落ちた。
暗闇。
誰かの悲鳴。
遠く。
そして。
ブブブブブッ!!
校舎中。
大量の通知音。
晴翔のスマホも震える。
画面が勝手につく。
おすすめ欄。
真っ黒な背景。
【認識異常を検知】
次。
【修正不能データを確認】
その文字の直後。
画面いっぱいに、ノイズが走る。
ザザザザッ!!
晴翔は思わずスマホを落としかける。
ノイズの奥。
一瞬だけ映像。
教室。
夕方。
そして。
瀬那がいた。
今までで初めて。
はっきりと。
画面の中で、瀬那はこちらを見ている。
その顔は、異常なくらい疲れていた。
『晴翔』
声。
『もう時間ない』
「待っ――」
その瞬間。
映像が乱れる。
別の声。
機械みたいな音声。
『不要な接続を再検出』
『観測者間での再同期を開始』
瀬那が、明らかに焦った顔で何か言う。
でも。
ノイズで聞こえない。
ただ。
最後の瞬間だけ。
瀬那の口の動きが見えた。
『屋上』
ブツッ。
映像終了。
校内放送が流れる。
ノイズ混じり。
『正常な学習環境を維持するため――』
その音声の途中。
突然。
別の声が割り込んだ。
『逃げろ』
瀬那の声だった。
#恋愛
コメント
1件
もう、読んでて息できなくなった……「まだ見るな」ってガラスの向こうから言われるシーン、心臓止まるかと思った。画面が勝手に起動してノイズ走るところとか、機械的な音声と瀬那の声が混ざるところも怖くて良かった。 「屋上」って口の動き——次が気になりすぎるよ。情報の出し方がほんとに上手で、無理に説明しないのが逆に怖いんだよね。