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倉庫の扉が閉まった瞬間、空気が前よりも重かった。
前回の暴力とは違う。
殴る前の、間がある。
その“沈黙”が、遥には最悪だった。
陰キャたちは笑わない。
怒鳴りもしない。
ただ、ねっとりした目で、遥を観察している。
「……女子に囲まれてたんだって?」
一人が、何でもないように言った。
その口調が一番怖い。
「触られて固まってたって、マジ?」
「キスされて、真っ赤になったって?」
遥は知らない。
そんな話、いつの間に。
けれど、彼らは“信じたかった”。
そして“許してほしいのは、真実じゃない”。
自分たちの妄想の方だ。
「……おまえ、さ」
一人が、ゆっくりと距離を詰める。
「下のくせに調子乗ってね?」
その言葉の刺し方も、前とは違う。
嘲りではなく“確認”するような声。
まるで、女子たちの噂が正しいか検証する実験みたいに。
腕を掴まれ、壁に押し付けられた。
暴力は荒くない。
だけど、丁寧に逃げ道を潰してくる。
「顔、真っ赤にしてみ? 女子にされた時みたいに」
「固まるんだろ。やってやるから」
“やってやる”という言葉が、
殴るより遥の心を削った。
彼らは、遥の反応全部を“女子の続き”だと思っている。
殴るときも、蹴るときも、
その前に “観察” が入る。
「どこ触られたのが一番効いた?」
「女子、こんな感じだった?」
頬を掴まれたとき、
いつも以上に近い。
距離が近いのに、触れ方は雑じゃない。
暴力というより、“実験台”に触れる手つき。
その異様さが、前のいじめとは全く違う。
「なぁ、これで赤くなる? ならねぇの?
どっち?」
殴られる。
けれど、殴られたあとに、
彼らは必ず“顔色を確認する”。
「……やっぱ女子の時みたいにはならねぇか」
「いや、まだ本気出してないだけ?」
全員が、
女子の噂を基準に、
遥の反応を“照合”している。
噂が、真実より強くなっていた。
殴られれば痛い。
蹴られれば倒れる。
だけど、それ以上に――
彼らの妄想の中で、“遥の人格が書き換えられていく”方が恐ろしかった。
倉庫から出る前、
一人がわざと小さく言った。
「女子に遊ばれたんだろ?
だったら、俺らが使っても文句言えねぇよな」
その“使う”という単語に、
性的な直接表現はないのに、
遥の背筋が凍った。
彼らは、怒りを見せない。
嫉妬と言わない。
嫌悪も出さない。
ただ――
下の人間を、さらに下へ押し込み直す作業として
今日のいじめをしていた。
噂のせいで、遥の位置は
“女子に弄ばれる格下”から
“男子にも自由にしていい対象”へと
書き換えられてしまった。
誰も叫ばない。
誰も笑わない。
静かな分だけ、残酷だった。