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#読み切り
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ドアが開く。
相談者は少し間を置いてから言った。
「普通に話してるのに、距離縮まらない……」
蓮司は椅子を引く。
「どのくらい話してる」
「毎日。授業の合間とか、帰りとか。内容も普通に雑談」
「沈黙は?」
「ある。でも気まずくはない」
「じゃあ問題なさそうに見えるな」
「見える。でも、そこで止まってる感じ」
蓮司は座る。
「“会話量”と“距離”は別だ」
相談者は眉を寄せる。
「別?」
「話してる=近い、じゃない。
“何を出してるか”で距離は変わる」
「何をって」
「情報の種類」
相談者は黙る。
「今の会話、たぶん“安全な情報”だけで回ってる」
「安全……」
「授業、先生、部活、ネタ、他人の話。
誰でも共有できるやつ」
「……当たってる」
「それは“横に広がる会話”。
距離は縮まらない」
少し沈黙。
「じゃあどうすればいい」
「“縦に落とす”」
「縦?」
「自分の側に寄せる。
“俺はどう思うか”“自分はどうするか”を一言足す」
相談者は少し考える。
「それだけ?」
「それだけで変わる。
会話が“お前の話”になる」
「でも重くならない?」
「長くすると重い。短くなら軽い」
「どのくらい」
「一文で終わるくらい」
間。
「例えば?」
「“それ俺は無理だわ”とか“俺はちょっと好きかも”とか」
相談者は小さく頷く。
「今まで避けてた……」
「だろうな。
安全なままだと、距離も安全なまま止まる」
少し沈黙。
「あともう一個」
「何」
「“質問の種類”」
「質問?」
「今、事実しか聞いてないはず。
“いつ”“どこ”“何した”」
「……そればっか」
「そこに一個だけ混ぜる。
“どう思った?”」
相談者は顔を上げる。
「感想?」
「そう。
相手の中身に触れる質問」
「でも答えにくくない?」
「だから一個だけ。連発しない」
間。
「もし向こうが浅く返してきたら?」
「深さを合わせろ。
一人だけ潜るとズレる」
相談者は苦笑する。
「またズレるのか……」
「ズレるのは普通。
合わせ直せばいい」
少し沈黙。
「距離って、どっちかが詰めるもの?」
「違う。
“同じ深さにいる時間”で縮まる」
相談者は黙る。
「今は?」
「横に並んでるだけ。
高さが揃ってない」
「……分かる気がする」
蓮司は机に指を置く。
「あと、“間”の使い方」
「また間か」
「重要だからな」
「何を変えるの」
「相手が話したあと、すぐ次の話題に行くな」
「やってる……」
「一拍置いて、“それどういう意味?”って掘る」
相談者は少し驚く。
「広げるんじゃなくて、深くする?」
「そう。
横に増やすより、縦に掘った方が距離は縮む」
間。
「でも尋問みたいにならない?」
「回数次第。
一回掘って、あとは流す」
相談者は息を吐く。
「バランスむずいな……」
「最初は崩れる。
でもやらないと変わらない」
少し長い沈黙。
「なんかさ」
「何」
「今まで“ちゃんと話してる”つもりだった」
「間違ってない」
「でも“近づく話し方”じゃなかった」
「そういうことだな」
相談者は視線を上げる。
「怖いのは変わらないけど……」
「いい」
「ちょっとだけ変えてみる」
蓮司は頷く。
ドアの前で足を止める。
「もし何も変わらなかったら?」
「その相手とは、その深さが上限かもしれない」
「……それもあるか」
「全部の関係が深くなるわけじゃない」
ドアが閉まる。
話しているだけでは、距離は動かない。
同じ深さに触れたときだけ、少しだけ近づく。