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来華
90
#mlmk
I am 壁 @自給自足
62,199
#だてなべ
ゆー
4
双子の兄蒼真は、昔――女の子みたいだった。
写真に残っている。
ワンピースを着て、髪も長くて、笑っている。
隣にいる自分より、ずっと可愛かった。
それが、当たり前だった。
「見て」
紬は、アルバムを抱えて部屋に入る。
ノックはしない。
昔から、そうしてきた。
「なに」
蒼真はベッドの上で寝転がったまま、スマホを見ている。
声だけが返ってくる。
紬は気にせず、隣に座った。
ページをめくる。
「これ」
指で示す。
ピンクの服。
笑ってる蒼真。
「……だから?」
視線は落ちてこない。
でも、紬は少しだけ嬉しい。
ちゃんと返事はしてくれるから。
「やっぱり可愛いよね」
言いながら、少しだけ笑う。
「昔から思ってたんだけどさ」
ページを撫でる。
紙の上の蒼真は、今の蒼真と違う。
でも、紬にとっては同じだった。
ずっと、繋がってるものだった。
「僕も、なれるよね」
ぽつりと出る。
軽く言ったつもりだった。
確認するみたいに。
当たり前のことを聞くみたいに。
「お兄ちゃんみたいに」
そこで、初めて。
蒼真の指が止まる。
スマホの画面が暗くなる。
ゆっくりと、体を起こす。
視線が、紬に向く。
「……は?」
短い。
低い。
紬は、一瞬だけ戸惑う。
でも、すぐに続ける。
「だって、昔――」
「それ、やめろ」
被せられる。
強くはない。
でも、はっきりした拒絶。
紬は、言葉を止める。
「ガキの頃の話だろ」
蒼真は、アルバムをちらっと見る。
その目に、懐かしさはない。
「でも、今でも――」
「今は違うだろ」
また被せられる。
今度は、少しだけ苛立ちが混じる。
紬は、息を詰める。
何かが、少しだけズレる。
でも、まだ引けない。
「僕も、なりたい」
ちゃんと言う。
逃げないで。
「お兄ちゃんみたいに」
沈黙が落ちる。
ほんの一瞬。
でも、さっきまでと違う。
蒼真の顔が、はっきり変わる。
「無理に決まってんだろ」
迷いがない。
即答だった。
「え……」
「てかさ」
蒼真は、ため息みたいに息を吐く。
面倒くさそうに、でもどこか冷めた目で。
「男なんだから、ちゃんとしろよ」
その言葉が、落ちる。
重くはないはずなのに、逃げ場がない。
「そういうの、気持ち悪いから」
軽く付け足される。
本当に軽く。
それなのに。
紬の中で、何かが音もなく崩れる。
「……そっか」
小さく言う。
うまく笑えたかは分からない。
蒼真はもう、スマホに視線を戻している。
話は終わり、みたいに。
いつも通り。
いつも通りのはずなのに。
紬は、アルバムを閉じる。
指先が少しだけ震えている。
気づかないふりをする。
立ち上がる。
「ごめん」
何に対してか分からないまま、そう言っていた。
蒼真は何も返さない。
もう聞いてないのかもしれない。
廊下に出る。
ドアが閉まる音が、やけに響く。
そのまま歩いて、リビングを通り過ぎる。
玄関。
靴を履く。
外に出る。
夕方の空気が、少し冷たい。
「紬?」
名前を呼ばれる。
顔を上げると、悠生がいた。
家の前の電柱にもたれている。
昔から、よくここにいる。
「……なにしてんの」
紬は、少しだけ視線を逸らす。
「別に。蒼真、いる?」
自然な声。
当たり前みたいに。
紬は、少しだけ詰まる。
「いるけど」
「そ」
悠生は、それだけ言って、家の方を見る。
その視線に、迷いはない。
紬は、それを見てしまう。
ずっと、見てきたもの。
変わらないもの。
「……入れば」
言う。
少しだけ、無理やり。
「ん、あとでいい」
悠生は笑う。
軽く。
「今、紬と話してるし」
その言葉に、少しだけ救われそうになる。
でも、続かない。
「てかさ」
悠生が、ふと紬の顔を覗き込む。
「泣きそうな顔してる」
紬は、一瞬止まる。
すぐに逸らす。
「してない」
「してる」
即答。
変わらない調子。
でも、その目は少しだけ真剣。
紬は、何も言えない。
喉が詰まる。
でも、出てくる言葉は違う。
「……なんでもない」
結局、それだけ。
悠生は、少しだけ間を置く。
何か言いかけて、やめる。
そして、ふっと視線を外す。
その先は、家。
蒼真がいる方。
「そっか」
短く言う。
それ以上は踏み込まない。
踏み込めない。
三人は、まだ繋がっている。
でも、
同じ場所には、もういない。
コメント
2件
まって新作気付けんかった!!!! えなにこれ神作ですか????神ですか????一気見するわとりあえず👍️👍️