テラーノベル
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昼休み。
教室のざわめきは、どこか遠い。
紬は、自分の席で弁当を開く。
特に誰と食べるわけでもない。
昔は違ったけど、今はこれが普通になっている。
箸を持つ。
一口。
味は、あまりしない。
窓際。
視線を上げると、蒼真がいる。
机に肘をついて、外を見ている。
隣には、悠生。
何か話している。
距離は近い。
自然に、近い。
紬は、少しだけ視線を逸らす。
でも、また戻ってしまう。
癖みたいに。
笑っているのは、悠生のほうだ。
蒼真は、あまり表情を変えない。
それでも、完全に無関心ではない。
ちゃんと聞いている顔。
それが分かる。
紬は、それを知っている。
昔から、見てきたから。
(あっちなんだ)
ふと、思う。
どっちにいるかなんて、もう分かっているのに。
それでも、何度も確認してしまう。
「なあ」
急に、声が落ちる。
紬の机の前。
男子が一人、立っている。
クラスメイト。名前は、覚えている。
でも、特別な関係じゃない。
「それ、自分で作ってんの?」
弁当を指さされる。
紬は、少しだけ間を置く。
「……うん」
「へえ」
興味なのか、ただの会話なのか分からない。
「なんか女子っぽくね?」
軽い調子。
悪意は、ない。
だからこそ、逃げ場がない。
「別に」
短く返す。
それ以上は続けない。
男子は少しだけ笑って、去っていく。
それだけ。
それだけのこと。
でも、妙に残る。
箸を持つ手が、少し止まる。
さっきの言葉が、頭の中で引っかかる。
――女子っぽくね?
別に、初めてじゃない。
何度も言われてる。
でも、
(違う)
と、思う。
それだけじゃない。
そんな軽いものじゃない。
「紬」
名前を呼ばれる。
顔を上げる。
悠生が立っている。
いつの間にか、すぐそこに。
「……なに」
少しだけ、声が固くなる。
「昼、ひとり?」
見れば分かることを聞く。
でも、いつもそうだ。
「そうだけど」
「一緒に食う?」
一瞬、言葉が止まる。
視線が、勝手に窓際に向く。
蒼真。
まだいる。
こっちは見ていない。
当たり前みたいに。
「……蒼真は?」
聞いてしまう。
無意識に。
悠生は、一瞬だけ間を置く。
「あとでいいって」
軽く言う。
さっきと同じ調子。
でも、少しだけ違う。
何かを誤魔化してるみたいな。
紬は、視線を戻す。
悠生を見る。
その奥に、別のものを見てしまう。
(本当は、あっちなんだろ)
思ってしまう。
言わないけど。
「……いい」
小さく言う。
「別に、ひとりでいいし」
断る理由なんてないのに、
理由みたいに言う。
悠生は、少しだけ目を細める。
「そ」
それ以上は言わない。
引くのが、うまい。
昔から。
少しの沈黙。
悠生は、そのまま立っている。
行くでもなく、座るでもなく。
中途半端な距離。
紬は、箸を動かす。
見られているのが、少しだけ分かる。
「……あいつのこと」
ぽつり、と悠生が言う。
紬の手が止まる。
「まだ、気にしてんの」
直接的じゃない。
でも、分かる。
誰のことか。
「別に」
即答する。
少しだけ強く。
「してない」
嘘だと、自分でも分かる。
悠生も、多分分かってる。
でも、突っ込まない。
「そっか」
短く返す。
それだけ。
それ以上は踏み込まない。
沈黙が落ちる。
周りのざわめきが、逆に浮く。
遠くの音みたいに。
「……俺さ」
珍しく、悠生が続ける。
紬は顔を上げない。
でも、聞いている。
「昔のあいつ、好きだったよ」
一瞬。
時間が止まる。
「今もだけど」
軽く付け足される。
でも、軽くない。
全然、軽くない。
紬の指が、ぎゅっと箸を握る。
音がしそうなくらい。
「……そっか」
やっと出たのは、それだけ。
他に言葉がない。
悠生は、それ以上何も言わない。
言えないのかもしれない。
紬も、何も言わない。
言いたくないのかもしれない。
少しして、悠生が離れる。
足音が遠ざかる。
紬は、顔を上げない。
上げたら、何か見てしまいそうで。
しばらくして、視線を上げる。
窓際。
蒼真と悠生が、また並んでいる。
さっきと同じ距離。
さっきと同じ空気。
(同じ場所にいるだけ)
ふと、思う。
同じ教室。
同じ時間。
同じ距離。
でも、
もう、同じじゃない。
弁当は、半分くらい残っている。
食べる気は、もうなかった。
そあふぃー
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