テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後。
ドアが少し開く。
「失礼します」
「どうぞ」
生徒は入ってきて、椅子に座る。少し迷ってから話し始める。
「クラスで、普通に話す人はいるんです」
「うん」
「話しかければ返してくれるし、たまに向こうからも来る」
そこで少し言葉が止まる。
「でも」
机を見ながら続ける。
「なんか、自分だけちゃんと覚えられてない感じがして」
日下部は黙って聞く。
「名前は知ってると思うんですけど」
「うん」
「なんていうか、“いる前提”になってない感じ」
少し笑う。
「説明むずかしいんですけど」
「なんとなく分かる」
日下部は言う。
「話すときは普通なのに、いないときに思い出されない感じか」
生徒はすぐ頷く。
「それです」
少し声が小さくなる。
「グループで何かするときとか、自分だけ声かからなかったり」
「あとで“あ、ごめん忘れてた”って言われたり」
短く息を吐く。
「悪気ないのは分かるんですけど」
「地味にきつい」
「はい」
日下部は少し考える。
「それ、能力の問題じゃない」
生徒が顔を上げる。
「え」
「存在の出し方の問題」
生徒は少し戸惑う。
「出し方」
「人は、印象が強いものから覚える」
日下部は続ける。
「声が大きいとか、リアクションが分かりやすいとか、よく話しかけるとか」
生徒は黙る。
「逆に」
「うん」
「静かで、合わせるのが上手い人は」
一拍置かずに言う。
「埋もれやすい」
生徒は少し苦笑する。
「たぶんそっちです」
「だろうな」
日下部は頷く。
「悪いことじゃない」
「でも損してる感じがします」
「少しはな」
正直に言う。
生徒は小さく笑う。
「やっぱり」
「じゃあどうするか」
日下部は続ける。
「少しだけ“引っかかり”を作る」
「引っかかり」
「印象に残るポイント」
短く言う。
「例えば」
「うん」
「話すときに一言足すとか、リアクションを少しだけ大きくするとか」
生徒は考える。
「それだけで変わりますか」
「多少は変わる」
日下部は言う。
「人は“反応がある人”を覚える」
生徒はゆっくり頷く。
「あともう一つ」
「何ですか」
「待たない」
短く言う。
「待たない?」
「呼ばれるのを待つと、忘れられる」
生徒は少し苦笑する。
「それ、あります」
「だから自分から入る」
日下部は続ける。
「“何やってる?”って一言入るだけで、存在が固定される」
生徒は考える。
「ちょっと勇気いりますね」
「いるな」
「でも」
日下部は言う。
「何もしないと、今の状態は続く」
生徒はゆっくり頷く。
「少しだけなら、やってみます」
立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「覚えられてない感じって、自分だけかと思ってました」
「わりとある」
短く答える。
「特に、ちゃんとしてるやつほど」
生徒は少し笑う。
ドアが閉まる。
目立たないことは悪くない。
でも、少しだけ引っかかりを作ると、見え方は変わる。