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凪は、小さいころから知っていた。
嫌われない方法。
難しいことじゃない。
断らない。
怒らない。
困らせない。
それだけ。
そうすると、人はすぐには離れない。
小学校のころ。
クラスの男の子が言った。
「なあ凪」
「ん?」
「消しゴム貸して」
凪は机の中を探す。
「いいよ」
貸す。
でも、返ってこない。
次の日。
「なあ凪、ノート見せて」
「いいよ」
その次の日。
「ジュース買ってきて」
「いいよ」
凪はコンビニに走る。
それを見て、他の子も言い出す。
「俺も」
「俺も」
凪は笑う。
別にいい。
そうすると、みんなが話しかけてくれる。
それは悪くない。
ある日、先生が言った。
「グループ作って」
教室がざわざわする。
机が動く。
みんな友達と集まる。
凪は座ったまま。
誰も呼ばない。
でも。
「凪こっち来いよ」
後ろの男子が言う。
凪は立つ。
そのグループに行く。
席に座る。
男子が笑う。
「ノート写させてな」
凪はうなずく。
「いいよ」
みんな笑う。
その笑いは少しだけ優しい気がした。
高校に入ると、それはもっと分かりやすくなった。
凪は便利だった。
「凪、購買行って」
「いいよ」
「凪、これ先生に出しといて」
「いいよ」
「凪、金ある?」
「あるよ」
クラスはよく笑った。
凪のことを見て笑う。
でも。
それでもいい。
笑われてる間は、そこにいていい。
ある日。
教室でカードゲームをしていた。
負けたやつが罰ゲーム。
「負けたー」
男子が言う。
誰かが言う。
「じゃあ凪でよくね?」
笑い。
「たしかに」
「凪ならやるし」
凪は笑う。
「何する?」
黒板に書かれる。
今日の凪チャレンジ
・購買のパン全部買う
・先生に意味ない質問する
・三年の先輩に告白する
教室は大盛り上がり。
「凪いけ!」
凪は立つ。
購買に走る。
パンを抱えて帰る。
みんな爆笑。
先生のところに行く。
意味のない質問をする。
クラスは窓から見て笑う。
最後。
三年の教室。
凪はドアを叩く。
「すみません」
先輩が出てくる。
「何?」
凪は言う。
「好きです」
廊下が静まる。
数秒。
先輩は困った顔をする。
「ごめん」
凪は笑う。
「大丈夫です」
教室に戻る。
ドアを開けると、爆笑。
「マジでやった!」
「やばい!」
凪も笑う。
それでいい。
その方が空気が軽い。
そのとき。
ふと視線を感じる。
教室の後ろ。
蒼。
壁にもたれて、腕を組んでいる。
蒼は笑っていない。
ただ見ている。
凪は少しだけ安心する。
みんなが笑っても。
蒼だけは、凪を見て笑わない。
その日の帰り。
校門。
後ろから声。
「凪」
振り向く。
蒼。
「何」
蒼は少しだけ眉をひそめる。
「お前さ」
「ん?」
「嫌じゃねえの」
凪は考える。
少しだけ。
それから言う。
「別に」
「なんで」
凪は肩をすくめる。
「嫌われる方が嫌」
蒼は黙る。
凪は笑う。
「それに」
「?」
「話しかけてくれるし」
蒼はしばらく何も言わない。
それから小さく言う。
「変なやつ」
凪は笑う。
「よく言われる」
二人は並んで歩く。
そのとき凪は思った。
蒼は優しくない。
助けない。
止めない。
でも。
笑わない。
それだけで凪にとっては少しだけ特別だった。
だからたぶん。
もし蒼に言われたら。
凪は、きっと何でもやる。