テラーノベル
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ドアが閉まる音がして、相談者は椅子に沈んだ。
「今さら無理なんだよ」
蓮司はペンを止める。
「何が」
「本音。もう何年も“平気なやつ”で通してる。悩みなさそう、怒らなさそう、メンタル安定してそう。今さら“実はきつい”とか言ったら、キャラ崩壊」
「崩壊ってほどでもない」
「いや崩れる。みんな俺に重い話しないのも、“こいつは大丈夫側”だからだし。そこに俺が落ちたらバランス変わる」
蓮司は椅子を傾ける。
「で、本音はある」
「ある。普通にある。ムカつく日もあるし、傷つくこともある。でも出さない方が回る」
「回るけど、溜まる」
「溜まる」
少し沈黙。
「何が怖い」
「引かれるのもあるけど……」
言葉が止まる。
「?」
「“面倒なやつ”認定」
蓮司は即答する。
「なるやつはなる」
「は?」
「全員に好かれる前提で出すから怖い。選べ」
「誰に」
「全体に一斉公開するな。信頼度の高い一人に、短く出せ」
「短く?」
「長文は重い。要点だけ。“実は最近きつい日ある”くらいでいい。理由は聞かれたら答える」
「それで引かれたら?」
「その距離は元々そこまで」
相談者は机を見る。
「でもさ、今まで平気な顔してたのに、急に弱音ってダサくない?」
「ダサいかどうかより、本音出せない関係の方がダサい」
少し沈黙。
「俺さ、たぶん」
「何」
「“支える側”でいたいんだよ」
「楽だからな」
「楽?」
「弱音吐かないやつは、責められにくい。安定枠。崩れない人って扱いは安全」
「……安全」
「でも孤立する」
相談者は息を吐く。
「確かに、誰も俺の心配はしない」
「お前が“平気です”出してるからな」
「出してる」
「やめたい?」
「やめたい」
「なら少し崩せ」
「崩すの怖い」
「一気に崩すな。ヒビ入れるだけでいい」
「ヒビ?」
「“最近ちょっと疲れてる”って言う。それだけで周りの認識は変わる。崩壊はしない。微調整だ」
相談者は少し笑う。
「俺が弱音吐いたら、空気止まりそう」
「止まるかもしれない。でもそれ、処理中なだけ。拒絶とは限らない」
「それ前も言ってたな」
「使える理屈は使い回す」
立ち上がりかけて、止まる。
「なあ」
「何」
「本音出して、誰も拾ってくれなかったら?」
蓮司は肩をすくめる。
「そのときは俺に持ってこい。拾う場所ゼロじゃない」
相談者は小さく頷く。
「全体に出さない。選んで、短く、ヒビだけ」
「それでいい」
ドアの前で振り返る。
「平気なやつってさ」
「何」
少し迷ってから、続ける。
「強いと思われるけど、実際は出してないだけ。
ばれてる?」
蓮司は一瞬だけ目を細める。
「意外と」
ドアが閉まる。
本音は爆発させるものじゃない。
少しずつ、関係の強度を測るためのヒビでいい。
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