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下校時間、昇降口に向かう途中で呼び止められた。振り返る間もなく肩をつかまれ、階段の方へと押しやられる。気づけば周囲には十人以上、同学年もいれば一つ上の先輩、下の学年の後輩まで混じっている。誰一人、止める者はいない。
「お、今日も来たな。名物だろ」
「有名人じゃん、学校中で」
笑い声と囁き声が重なり、背筋が冷たくなる。
階段の踊り場に追い詰められ、背中を壁に押しつけられる。男子の手が胸ぐらをつかみ、女子が笑いながらリュックを奪い取る。中身をぶちまけ、ノートを破り、教科書を蹴飛ばす。
「宿題? あんたがやる意味ある?」
「どうせ答えも間違ってんだろ」
破かれた紙片が宙を舞い、足元に散らばる。拾おうとすれば蹴られ、背中を壁に叩きつけられる。
「なあ、こいつ落ちても死なねえよな?」
先輩の声に、周囲が笑い声で応える。次の瞬間、背中を押され、数段下の階段に転げ落ちた。肘が石段にぶつかり、激痛が走る。立ち上がろうとする間もなく、足を引っ張られて再び引き戻される。
「おい、ちゃんと頭から落ちろよ」
「ビビってんの、顔に出てんぞ」
上級生が靴で脇腹を蹴り、同学年の男子が腕を押さえ、女子が携帯を構えて笑う。
「映えるわー、これ」
「今日のベストショット決まりだね」
床に転がる遥の頭を、後輩がつま先で小突く。
「先輩ってさ、弱すぎません?」
「マジ情けな。俺らの学年の恥でしょ」
笑いは止まらない。
逃げ道は塞がれ、立ち上がる力も削がれていく。背後から誰かが水筒を開け、中身を頭から浴びせる。冷たい水が髪と制服を濡らし、女子がわざとらしく鼻をつまむ。
「臭っ。犬以下じゃん」
「でも犬ならもう少しマシかもね」
次に浴びせられたのは水ではなく、持ち込まれた掃除用バケツの汚水だった。鼻を突く臭気に吐き気を催すが、笑い声がそれをかき消す。
「おーい、顔突っ込めよ。水泳の特訓だろ」
後ろから頭を押さえつけられ、バケツに沈められる。必死に呼吸を求めて暴れるが、抑える手は容赦がない。咳き込みながら顔を上げれば、また笑い声。
「見てみろ、この顔」
「泣きそうじゃん」
髪を掴まれ、再び壁に叩きつけられる。耳の奥でキーンと音が鳴り、視界が揺れる。
「まだ立てんだろ? しぶといな」
「じゃあ罰ゲーム続行だな」
誰かが持ってきたマーカーで頬に文字を書きなぐる。「奴隷」「ゴミ」「笑え」。鏡を見ることもできないが、周囲の爆笑で何が書かれたか理解できてしまう。
最後に、先輩が階段の端に立たせる。両肩を押さえ、背中を外側に向けて。
「飛べば楽になるんじゃね?」
「ビビってんのかよ。なあ、選べよ。飛ぶか、俺らに突き落とされるか」
笑いながら迫る声、背中にかかる重圧、足元に広がる階段。頭の中は真っ白で、言葉も出ない。ただ震える体が勝手に「生きたい」と「逃げたい」を同時に訴える。
しかし周囲の笑い声がその叫びをかき消す。誰も助けない。ここでは、学校中で有名な「いじめられるやつ」という役割しか与えられていないのだ。