コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昇降口へ戻る途中、全身は泥と汚水に濡れ、頬にはマーカーの落書きが残ったままだった。教室に入れば、待っていたのはさらに広がる笑いだった。
「うわ、帰ってきた」
「見て、顔に書いてある。ガチで奴隷じゃん」
「先生に見つかったらどうすんの?」
その「先生」が、ちょうど教室に入ってきた。中年の数学教師。視線が一瞬、遥に止まる。制服の惨状も、髪から滴る水も、頬の落書きも、誰の目にも明らかだった。
だが、教師は鼻で笑っただけだった。
「……授業前に風呂にでも入ってきたのか? 汚いな。後ろで立っとけ」
クラス中が爆笑する。遥は立ち上がりかけてふらつき、机に手をついた瞬間、その教師のチョークが飛んできて額に当たった。
「おい、立て。役立たずでも、立つくらいはできるだろ」
「先生、そいつ教科書びしょ濡れっすよ」
「ノートもぐしゃぐしゃー」
生徒たちが口々に叫ぶ。
教師はそれを聞き、面倒そうに肩をすくめた。
「じゃあ、今日の授業は黒板書き係だ。手も口も不自由みたいだから、せめて体くらい使え」
笑いと拍手が起きる。遥は黒板の前に立たされ、ずぶ濡れのままチョークを握らされた。指先は震え、字は歪む。
「見ろよ、ガタガタじゃん」
「小学生以下だな」
後ろから消しゴムのかけらや紙くずが飛ぶ。教師は止めない。むしろ腕を組み、口元に笑みさえ浮かべている。
「集中力が足りないな。もっときれいに書け」
チョークを握る手の関節に痛みが走る。爪を剥がされたままの指が、白い粉で染まっていく。震える線が黒板に伸びるたび、教室の空気が笑いで震えた。
授業が終わるころ、教師は最後に言った。
「おい。廊下のモップ掛けもやっとけ。お前はクラスのために存在してるんだろ」
遥は答えられなかった。ただ、視線を落としたまま、教室中の嘲笑を浴び続けるしかなかった。