テラーノベル
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教室は騒がしかった。
机を寄せる音。笑い声。コンビニ袋の擦れる音。
全部いつも通り。
なのに。
晴翔だけ、その中に入れていない感覚があった。
「……なぁ」
小さく声を出す。
前の席の男子が振り向く。
「ん?」
晴翔は少し迷ってから聞いた。
「昨日さ、俺と瀬那の話してたよな」
男子はきょとんとした顔をする。
「何の?」
「距離近いとか」
「……は?」
本気で分かっていない顔。
演技じゃない。
「いや、放課後」
「昨日?」
男子は少し考えてから首を振る。
「そんな話してなくね?」
晴翔の背中が冷える。
まただ。
「でも美玲の時も――」
そこまで言って、晴翔は止まる。
美玲。
そうだ。
美玲。
昨日から来ていない。
なのに。
教室の前。
美玲が友達と喋っていた。
晴翔の呼吸が止まる。
普通に。
笑っている。
「……は?」
声が漏れる。
美玲がこちらを見る。
「あ、晴翔おはよー」
いつも通りの声。
晴翔は言葉を返せない。
おかしい。
だって。
美玲はおすすめを見て、休み始めて――
「どうした?」
隣に来た瀬那が、低い声で聞く。
晴翔は美玲を指さす。
「なんでいるんだよ」
瀬那は眉をひそめる。
「何が」
「美玲だよ!!」
晴翔の声が少し大きくなる。
周囲がこちらを見る。
瀬那は数秒黙ったあと、静かに言った。
「……昨日もいた」
教室の音が遠くなる。
「嘘だろ」
「嘘じゃない」
「いや、だって休んで――」
「休んでない」
瀬那は即答した。
晴翔の頭が真っ白になる。
昨日。
美玲が休んだ。
その流れで、クラスの空気が変わった。
そこから全部始まった。
そのはずなのに。
「待って」
晴翔はスマホを開く。
トーク履歴。
美玲との会話。
昨日、“学校大丈夫?”って送ったはず。
ない。
送信履歴ごと消えている。
晴翔の指先が冷える。
ブッ。
通知。
動画アプリ。
開きたくない。
でも見てしまう。
おすすめ欄。
【“一人だけ違う記憶を持ち始めた人へ”】
晴翔の呼吸が止まる。
次の動画。
【“現実更新に失敗した場合の症状”】
「……現実更新?」
声が漏れる。
瀬那が、晴翔のスマホを奪うように見る。
そして、初めて明確に顔色を変えた。
「何でお前だけ出てる」
「は?」
瀬那は周囲を確認する。
誰もこちらを見ていない。
でも。
その警戒だけで、空気が変わる。
「俺のおすすめ、違う」
「違うって?」
瀬那は少し迷う。
でも、隠しても無駄だと思ったのか、スマホを見せた。
おすすめ欄。
【“更新後の世界に馴染む方法”】
晴翔の背筋が凍る。
「……何これ」
瀬那は小さく言う。
「俺は“更新された側”なんだろ」
晴翔は意味が分からない。
でも。
一つだけ分かる。
瀬那と自分は、もう同じものを見ていない。
その時。
美玲が笑いながら言った。
「そういえば晴翔ってさ」
教室の空気が自然にそちらへ向く。
「昨日からちょっと変じゃない?」
静かに。
でも確実に。
“ズレた側”として、晴翔だけが浮き始めていた。
コメント
1件
読み終えました……第9話、ぞわっとしましたね。 晴翔だけが「違う時間」を生きている感じ、すごく怖かったです。 美玲が普通に登校しているのも、トーク履歴が消えているのも、何より瀬那と「見ているおすすめが違う」という描写が、二人の間に透き通った壁があるみたいで切なかったです。 「ズレた側」として浮いていく不安が、地の文の静けさと相まってじわじわ来ました。続きが気になります……!