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午後の授業中。
黒板の文字が、ほとんど頭に入ってこなかった。
教師の声も、チョークの音も、全部遠い。
晴翔は、机の中でスマホを握っていた。
見たくない。
でも、確認しない方がもっと怖い。
横を見る。
瀬那は普通にノートを取っている。
昨日までと同じ。
同じ、のはずなのに。
違う。
晴翔だけが、何かから外れている。
ブッ。
通知。
心臓が跳ねる。
机の下で画面を開く。
おすすめ欄。
【“周囲との認識が一致しなくなった人の特徴”】
晴翔は息を止める。
次の動画。
【“更新後の会話に合わせるコツ”】
その瞬間。
教師の声。
「友崎」
ビクッと肩が揺れる。
「聞いてるか?」
教室の視線が集まる。
晴翔は立ち上がる。
「……すみません」
教師は少し怪訝そうな顔をしたあと、黒板へ向き直る。
でも。
数人の視線だけが残った。
“変”。
その空気が、じわじわ広がる。
授業終了のチャイム。
同時に教室がざわつく。
晴翔はすぐ瀬那を見る。
「なぁ」
瀬那は一瞬だけ反応が遅れた。
それだけで、妙に怖かった。
「……何」
「昨日、本当に美玲いたのか」
瀬那は少し黙る。
「いた」
「じゃあ何で俺――」
「分かんねぇよ」
瀬那の声が、少し強くなる。
珍しかった。
「でもお前だけ違うのは事実だろ」
晴翔は言葉を失う。
その時。
教室の後ろで、誰かが言った。
「ねぇ」
「友崎ってさ」
名前が出た瞬間、空気が少し止まる。
「最近ずっと一人で喋ってない?」
笑い声。
小さい。
でも、確実に聞こえる。
晴翔の喉が冷える。
「……は?」
「昨日もさ」
「誰もいないのに後ろ向いて喋ってたじゃん」
その瞬間。
晴翔の思考が止まる。
昨日。
放課後。
瀬那と話していた。
教室で。
確かに。
なのに。
「いや、瀬那いたじゃん」
言った瞬間。
空気が止まる。
「……誰?」
女子の声。
軽い疑問。
でも。
その一言で、教室の温度が落ちた。
「は?」
笑われているわけじゃない。
演技でもない。
本当に知らない顔。
「瀬那だよ」
誰も反応しない。
「同じクラスの」
沈黙。
教室後ろ。
誰かがスマホを見ながら言う。
「そんな名前いたっけ」
晴翔の背中に、冷たい汗が流れる。
嘘だ。
だってさっきまで。
隣で。
晴翔は勢いよく横を見る。
瀬那の席。
空。
ノートもない。
椅子も、最初から誰も座っていなかったみたいに机の中へ綺麗に入っている。
呼吸が止まる。
「……え」
教室のざわめきだけが響く。
晴翔は立ち上がる。
「待って」
誰も反応しない。
「瀬那だよ!!」
声が大きくなる。
「いただろ!!」
その瞬間。
ブッ。
スマホ通知。
震える手で開く。
おすすめ欄。
【“更新された世界に存在しない人を覚えている場合”】
晴翔の指先が冷たくなる。
次の動画。
【“削除済みアカウントとの関係を維持する方法”】
画面の下。
小さな文字。
【※正常な学習を妨げる記憶は、自動的に修正されます】
コメント
1件
うわ…これ、ぞっとした。教室の空気が一気に変わる感覚、すごくリアルだった。晴翔だけが「瀬那」を覚えていて、他の誰も存在すら認識してない――しかもスマホのおすすめが的確すぎて怖い。「削除済みアカウント」って表記、現実のSNSを連想させるのも効いてる。伏線の貼り方も巧みで、次の話が気になりすぎる…。