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神殿騎士三名の祝福減衰。
その報は、一夜で王都を駆け巡った。
減衰は一時的。
だが、確実に削られた。
神殿は声明を出す。
『異端の存在を確認。接触は禁ずる』
その言葉が逆効果だった。
人は、禁じられると知りたくなる。
王都南区。
地下闘技場の主催者、ガルムは報告書を叩きつけた。
「面白くなってきた」
減衰。
祝福の削れ。
観客の証言。
すべて一致する。
「祝福を“奪う”奴がいる」
金の匂いがする。
だがそれ以上に。
「神殿が慌ててやがる」
それが価値だ。
祝福は絶対。
神殿は不可侵。
その前提が揺らいだ。
「探せ」
部下に命じる。
「保護でも捕獲でもいい。先に押さえたほうが勝つ」
神殿より先に。
一方。
学院。
戦闘科の演習場。
剣を振るう音が止まる。
兄――アルトは、剣を下ろした。
《剣聖候補》の紋章が、わずかに揺らぐ。
あの日。
レオンに掴まれた瞬間。
確かに、何かが削れた。
ほんの僅か。
だが、感じた。
自分の光が、吸われた感覚。
「アルト様」
同級生が声をかける。
「異端の件、噂は本当ですか」
アルトは答えない。
否定も、肯定もしない。
だが心の奥で、理解している。
あれは異端ではない。
弟だ。
あのとき。
奪えたはずだ。
なのに、奪わなかった。
なぜ?
答えは一つ。
迷っている。
弟はまだ、完全に堕ちていない。
アルトは剣を握り直す。
「……俺が止める」
誰よりも先に。
診療院。
レオンは窓から街を見る。
警備が増えている。
検問。
祝福確認。
「反乱の芽が出てる」
リュシアが言う。
「反乱?」
「祝福制度に疑問を持つ人たち」
静かに。
「減衰が公になったことで、“絶対”じゃなくなった」
絶対でなければ。
神殿は神ではない。
「あなたの存在が、証明になってる」
「望んでない」
「でも現実よ」
机に置かれた手紙。
差出人不明。
『祝福に選ばれなかった者の会』
笑えない名前。
「接触希望だって」
「罠だ」
「かもしれない」
だが。
レオンは理解している。
祝福を持たない者。
低位祝福で虐げられる者。
彼らにとって。
自分は。
希望かもしれない。
奪える存在。
削れる存在。
均衡を壊せる存在。
「神は均衡を保つために俺を作った」
低く呟く。
「なら、均衡を壊すのも俺か」
リュシアはじっと見る。
「壊したい?」
即答できない。
祝福がなければ。
兄はただの人間。
神殿も、ただの組織。
だが同時に。
祝福がなければ救えない命もある。
《大治癒》。
本来ならリュシアが救えた命。
削られた今は、救えない。
均衡は残酷だ。
「壊すんじゃない」
レオンは言う。
「選び直させる」
「誰に?」
「人に」
神ではなく。
生まれではなく。
選択で。
そのとき。
扉が叩かれる。
三回。
規則的。
リュシアが目を細める。
「神殿じゃない」
違う気配。
扉を開ける。
そこに立っていたのは。
地下闘技場の主催者、ガルム。
にやりと笑う。
「祝福泥棒」
低い声。
「いや、“均衡崩し”か」
背後には武装した男たち。
「神殿と取引する気はない」
目が光る。
「だが俺たちは、神殿が嫌いだ」
差し出される手。
「組まねぇか?」
闇の側からの提案。
レオンは黙る。
これは反乱の始まり。
神殿か。
闇か。
それとも。
第三の道か。
遠くで、再び鐘が鳴る。
今度は重い。
神殿が、本格的に動く音。
リュシアが小さく言う。
「世界が、あなたを中心に回り始めた」
レオンは自嘲する。
「迷惑な話だ」
だが。
もう、ただの少年ではいられない。
神の装置は。
意思を持った。