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夜。
真白はコンビニ袋を持ったまま、ドアにもたれて言った。
「甘いの、買ってきた」
キッチンにいたアレクシスが振り向く。
「疲れてる顔」
「疲れてる」
「じゃあ正解」
袋をテーブルに置くと、がさっと音がした。
中から出てくるのは、プリンと、小さめのケーキの箱。
「ケーキも?」
「つい」
「ついで買うには甘い」
「甘いほうがいい日」
箱を開ける。
いちごのショート。
小さめで、二人分。
真白はソファに座りながらネクタイを緩めた。
そのまま背もたれに頭を預ける。
「切る?」
「半分でいい」
「了解」
アレクシスは皿を二枚出しかけて、やめた。
一枚だけ出す。
「一枚で?」
「一緒でいい」
「いい」
フォークも二本。
ケーキは中央から静かに切られる。
真白は受け取らず、そのまま少し体を寄せた。
「……」
「寄ってる」
「ん」
「近い」
「甘いの食べる距離」
「そういう距離ある?」
「ある」
小さく笑う。
フォークが同時に伸びて、同じ場所を狙って止まる。
「どうぞ」
「どうぞ」
「先」
「じゃあ」
真白が一口。
目を閉じるほどではないけど、肩の力が少し抜ける。
「当たり」
「よかった」
「ちゃんと甘い」
「それ大事」
今度はアレクシス。
同じケーキ。
同じ皿。
テーブルの上じゃなくて、ソファの真ん中で食べるから、距離が近い。
「今日、遅かった」
「うん」
「大変?」
「まあ」
「まあ、か」
「帰ってきたからいい」
そう言って、フォークで小さめに切って、差し出す。
「ん」
「自分で食べられる」
「知ってる」
「……」
少しだけ迷って、口を開ける。
甘い。
いちごの匂いが近い。
「どう?」
「甘い」
「さっきも言ってた」
「違う甘さ」
「どう違う」
「距離」
アレクシスは少しだけ笑った。
何も言わず、また一口。
半分のはずなのに、ゆっくり食べるから、なかなか減らない。
「全部食べる?」
「うん」
「太る」
「半分ずつだから大丈夫」
「そういう問題じゃない」
「でも半分」
「半分」
最後の一口だけ残る。
どっちが食べるか、自然と止まる。
「どうぞ」
「どうぞ」
「じゃあ一緒」
フォークを重ねて、小さく切る。
本当に半分。
食べ終わって、皿を置く。
真白はそのまま肩を預けた。
「……甘い」
「まだ言う」
「今日、甘い日」
「たまにある」
「たまにでいい」
「うん」
静かな部屋。
照明は少しだけ暖色。
空になった皿はテーブルにあるのに、二人はしばらく動かない。
甘いのは、ケーキだけじゃない。