テラーノベル
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相談者は、今日は言葉を選ぶのに時間がかかっていた。
何度か口を開いて、閉じる。
「……自分がいなくても、困らないんだろうなって」
その一言を出すまでに、少し間があった。
「学校でも、家でも」
日下部は、急かさない。
「休んでても、特に何も起きなくて」
相談者は、どこか遠くを見る。
「連絡も来ないし、
“大丈夫?”とかも、最初だけで」
「うん」
「代わりはいくらでもいるし、
自分が抜けても、普通に回ってて」
声は落ち着いているのに、内容だけが重い。
「それってさ」
相談者は続ける。
「責められてるわけでも、嫌われてるわけでもないのに」
「……」
「だから余計に、
“必要ないんだな”って思うんです」
日下部は、少しだけ姿勢を変えた。
「存在してなくても、成立してる感じ?」
「はい」
即答だった。
「“いなくていい”って、
直接言われたわけじゃないのに」
相談者は苦笑する。
「勝手に、そう結論つけちゃう」
日下部は、静かに言った。
「それ、かなり人を削る考え方だな」
相談者が眉を上げる。
「削る?」
「うん。
“役に立ってない=価値がない”って直結させてる」
相談者は黙る。
「学校ってさ」
日下部は続ける。
「必要とされてるかどうかが、
出席とか成績とか役割で測られやすい場所なんだよ」
「……」
「でもそれ、
人の存在の一部でしかない」
相談者は、小さく首を振った。
「でも、何もしてない自分は」
「“何もしてない”って言い切れる?」
相談者は言葉に詰まる。
「ここに来て、話して、
自分の状態を必死に説明してる」
日下部は淡々と言う。
「それ、ちゃんと“生きる作業”だよ」
相談者の指が、ぎゅっと組まれた。
「必要とされてないって感じるときさ」
「はい」
「本当は、“使われてない”だけのことも多い」
少し間を置いて。
「使われてない=いらない、じゃない」
相談者の目が揺れる。
「今は、
誰かの役に立つ形に当てはめられてないだけ」
日下部は、はっきり言った。
「でも、消えていい理由にはならない」
相談者は、深く息を吐いた。
「……そう言われると」
「うん」
「“必要とされてない”って言葉、
少しだけ軽くなります」
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