テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#読み切り
ドアが軽くノックされる。
「入っていいですか」
「どうぞ」
生徒は入ってきて座るが、どこか落ち着かない。
「なんか」
少し言葉を探す。
「人といるときは普通なんですけど」
日下部は頷く。
「一人になったあとに、急にしんどくなることがあって」
視線が机に落ちる。
「別に嫌なことあったわけじゃないのに」
少し間。
「帰ったあととかに、一気に疲れた感じが来るんです」
日下部はそのまま聞く。
「ちゃんと話せてたし、変なことも言ってないはずなのになんでこんな疲れてるのか分からなくて」
小さく息を吐く。
「これ、自分がおかしいんですか」
「おかしくはない」
日下部は言う。
生徒は少し顔を上げる。
「その場で処理してないだけ」
「処理?」
「会話中って、意外と余裕ない」
短く言う。
「相手の反応見て、言葉選んで、空気読んでる」
生徒は黙る。
「そのときは回ってるけど、余裕はない」
「……はい」
「で、一人になったときにまとめて来る」
淡々と続ける。
「後払いみたいなもん」
生徒は少し考える。
「じゃあ、その場では平気でも、あとで来るの普通なんですか」
「普通」
即答。
「特に、ちゃんとやろうとするやつほどそうなる」
生徒は苦笑する。
「やってます」
「だろうな」
日下部は続ける。
「で、対処」
生徒は少し前に寄る。
「ありますか」
「二つ」
短く言う。
「一つは、その場で少し抜く」
「抜く?」
「全部ちゃんとやらない」
淡々と続ける。
「反応を少し雑にするとか、完璧に返そうとしないとか」
生徒は黙る。
「それで、後の負担が減る」
「なるほど」
「もう一つ」
日下部は言う。
「疲れる前提で動く」
生徒は少し戸惑う。
「前提?」
「あとで疲れるのは仕様だと思う」
短く言う。
「だから、一人の時間をちゃんと取る」
生徒はゆっくり頷く。
「……無理に元気でいようとしてました」
「それが一番きつい」
即答。
「疲れてるのに、元気なままでいようとすると、余計消耗する」
生徒は少し息を吐く。
「じゃあ、疲れていいんですね」
「いい」
短く言う。
「むしろ自然」
少し間。
「その分、回復もちゃんとやる」
生徒は立ち上がる。
「ちょっと楽になりました」
「ならいい」
ドアの前で止まる。
「自分だけじゃないって分かったのがでかいです」
「多い」
短く返す。
ドアが閉まる。
その場で平気でも、後から疲れるのはズレじゃない。
処理のタイミングが違うだけだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!