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診療院の外。
足音が止まる。
白い法衣。
神殿騎士が三人。
中央は、学院で対峙した《浄化》の騎士。
「中にいるのは分かっている」
静かな声。
「祝福減衰の異端、出頭しろ」
逃げ場はない。
窓は一つ。
裏路地は袋小路。
奪えば突破できる。
奪わなければ、捕まる。
リュシアが言う。
「私が出る」
「だめだ」
「私は元聖女候補。少しは時間を稼げる」
その時間で逃げろと言っている。
レオンは首を振る。
「捕まれば、お前も調べられる」
「もう壊れた器よ」
静かだ。
でも、覚悟の匂いがする。
外から声。
「強制執行も辞さない」
足音が動く。
レオンの胸が脈打つ。
奪えば、全員倒せる。
奪えば、逃げられる。
奪えば――
神の装置として、正しい。
「レオン」
リュシアが見る。
「どうするの」
問い。
誰のために奪う?
自分のためか。
世界のためか。
それとも。
彼女のためか。
扉が破られる。
木片が飛ぶ。
騎士が踏み込む。
光る紋章。
空気が震える。
「確保する」
一人が突進する。
レオンは前に出る。
リュシアを背に。
剣が振り下ろされる。
避ける。
床が砕ける。
速い。
祝福強化。
まともに戦えば勝てない。
触れれば。
奪える。
騎士の腕が伸びる。
レオンは掴む。
視線が交差する。
「……!」
その瞬間。
胸が開く。
強烈な流入。
《浄化》の光。
熱い。
鋭い。
削る力。
レオンは、意識して止めない。
奪う。
初めて。
意図して。
騎士の紋章が揺らぐ。
「ぐっ……何を……」
力が流れ込む。
視界が澄む。
騎士の動きが鈍る。
もう一人が迫る。
そちらも掴む。
流れ込む。
強い。
強すぎる。
だが。
レオンは理解している。
これは自分のためじゃない。
リュシアを守るため。
選んだ。
奪うと。
騎士たちが膝をつく。
紋章の光が薄い。
完全には消していない。
意図的に。
削りすぎないように。
加減している。
装置ではなく。
人間として。
最後の一人が剣を構える。
「異端め……!」
レオンは言う。
「俺は異端じゃない」
踏み込む。
触れる。
奪う。
だが、半分だけ。
騎士は倒れる。
息はある。
祝福も、かすかに残っている。
静寂。
粉塵の中。
リュシアが言う。
「……選んだのね」
レオンは荒い息を吐く。
「奪った」
「ええ」
「でも、全部じゃない」
拳が震える。
強い。
今、確実に強い。
兄に近づいた感覚。
だが。
胸の奥は、さっきほど濁っていない。
守るために奪った。
言い訳かもしれない。
でも。
選んだ。
「あなた、今」
リュシアが静かに言う。
「少しだけ、祝福みたいだった」
意味が分からない。
「何だそれ」
「誰かを守るための力は、祝福よ」
皮肉だ。
奪う力が祝福。
レオンは自嘲する。
「神が聞いたら笑うな」
「神は笑わないわ」
外を見る。
夜は騒がしくなっている。
「本格的に敵になったもの」
神殿に手を出した。
しかも騎士を減衰させた。
もう後戻りはない。
「どうするの」
また問い。
今度は逃げるかどうかではない。
生き方の問い。
奪い続けるか。
止めるか。
レオンはゆっくり言う。
「必要な分だけ奪う」
危うい答え。
「均衡を保つためじゃない」
自分の意思で。
「守るために奪う」
リュシアは少し黙り。
そして、微笑む。
「それは優しい」
「優しくない」
「優しいわ」
静かな肯定。
遠くで鐘が乱打される。
神殿襲撃警報。
包囲は強まる。
レオンは理解する。
これで終わりじゃない。
これは始まり。
神の装置が、自我を持った。