テラーノベル
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ドアが開く。
相談者は座ると、少し言いにくそうに口を開いた。
「変な話なんだけど」
蓮司は椅子を引く。
「相談室でその前置き多いな」
相談者は少し笑った。
「まあな」
間。
「たまに、自分の人生なのに他人事みたいになる」
蓮司は座った。
「どういう感じ」
「学校行って」
「うん」
「勉強して」
「うん」
「友達と話して」
「うん」
「普通に過ごしてる」
「うん」
「でも時々、“何してるんだろ”ってなる」
少し沈黙。
「嫌なのか」
「分からない」
「辛い?」
「そこまでじゃない」
相談者は視線を落とす。
「ただ、自分の生活見てる感じ」
蓮司は軽く頷いた。
「割とある」
「そうなのか」
「ある」
間。
「何かおかしいのかと思ってた」
「その結論早いな」
相談者は苦笑した。
少し静かになる。
「何でなるんだろ」
蓮司は少し考えた。
「慣れだろうな」
「慣れ?」
「人間、毎日同じこと繰り返すと」
「うん」
「自動運転になる」
「うん」
「だから自分でやってる感覚薄くなる」
相談者は黙る。
「じゃあ疲れてるだけ?」
「それもある」
間。
「あと」
蓮司は続けた。
「お前、最近“先”ばっか見てないか」
相談者は顔を上げた。
「先?」
「次のテスト」
「うん」
「進路」
「うん」
「将来」
「うん」
「ずっと先」
少し沈黙。
「確かに」
「そうすると今が通過点になる」
相談者は黙る。
「通過点」
「今を“仮の時間”扱いする」
間。
「高校卒業したら本番」
「うん」
「大学入ったら本番」
「うん」
「就職したら本番」
「うん」
「その繰り返し」
相談者は苦笑した。
「ずっと本番来ないな」
「来ない」
少し静かになる。
「何かさ」
「何」
「今を生きてる感じがしない」
蓮司は頷いた。
「全部準備してる感じか」
相談者は止まった。
「それ」
間。
「ずっと準備」
「うん」
「いつか始まるために」
「うん」
「でも始まらない」
少し沈黙。
「だから他人事みたいになるのか」
「あるかもな」
相談者は机を見た。
「でも今の自分って、中途半端だし」
「人間、大体中途半端だぞ」
相談者は少し笑う。
「夢ないな」
「現実だ」
間。
「完成してる人なんていない?」
「少なくとも俺は見たことない」
少し静かになる。
「じゃあ何すればいい」
蓮司は少し考えた。
「大きい意味探すのやめる」
相談者は首を傾げる。
「え」
「最近食べたものでも」
「うん」
「見た動画でも」
「うん」
「帰り道でも」
「うん」
「そういう小さい実感の方が、自分を現実に戻す」
相談者は黙る。
「もっとすごい答えあるかと思った」
「ない」
相談者は笑った。
「ないか」
「ない」
少し沈黙。
「なんか」
「何」
「自分だけ人生の外側にいる感じしてた」
蓮司は小さく頷いた。
「でも、多分ちゃんと中にいる」
間。
「ただ、見失う日があるだけ」
相談者はゆっくり息を吐いた。
立ち上がり、ドアの前で振り返る。
「準備期間だと思ってた時間も、人生か」
「その可能性高いな」
ドアが閉まる。
人生を他人事みたいに感じる日があるのは、自分がおかしくなったからじゃない。
先ばかり見て、今を通過点にしすぎている時、そんな感覚になることもある。
コメント
1件
うわあ…この回、すごく刺さりました。 「ずっと準備してて、本番が来ない」って感覚、めっちゃわかります。私もよく「今は仮の時間」って思っちゃうから、蓮司くんの「小さい実感を大事に」って言葉がじんわり沁みました。 完成してる人なんていないって言い切ってくれるの、すごく救われる。ruruhaさんの描く会話の間の取り方、本当に好きです。
ruruha
558
#読み切り
ruruha
201
#ドラマ
柘榴とAI

92
榎本くもり
9,713