テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日。
よはく探偵社は、珍しく外に出ていた。
河川敷。
木津が語った現場は、昼間に見ると拍子抜けするほど普通だった。
「ほんとに、よくある場所だね」
真琴が周囲を見回す。
遊歩道、草むら、ベンチ。
ジョギングをする人と、犬の散歩をする老人。
事件があった痕跡は、何も残っていない。
「事故扱いになるのも、分かる」
玲が淡々と言った。
「転落の可能性、時間帯、飲酒。
状況証拠は全部揃ってる」
燈は地面を蹴る。
「揃いすぎなんだよ。
……って言いたいとこだけど」
自分で言いかけて、口を閉じた。
「今回は、そういう話じゃねえな」
澪が、少し遅れて頷く。
「第三者がいた形跡は、見当たりません。
“何かあった”と主張する材料は、ないです」
調査は短時間で終わった。
防犯カメラ、聞き込み、位置情報。
警察が押さえた情報と、ほぼ同じ結論に辿り着く。
——事故死。
——事件性なし。
「……木津さんに、報告するよ?」
真琴の問いに、誰も反対しなかった。
警察署の会議室。
木津は、報告を静かに聞いていた。
「つまり」
彼は、最後にそうまとめた。
「警察の判断は、妥当だと」
「はい」
玲が即答する。
「少なくとも、覆す材料はありません」
木津は、小さく笑った。
「だろ。
俺も、そう思ってる」
それは、肩の力が抜けた笑いだった。
「協力、ありがとう。
この件は、これで終わりだ」
「……本当に、終わりでいいんですか?」
真琴の声は、責める調子ではなかった。
木津は一瞬、彼女を見る。
「いい」
短く、はっきり言った。
「警察としても、個人としても」
それ以上、何も言わなかった。
探偵社に戻ったあと。
夕方の光が、床に斜めに差し込んでいた。
「解決、ですね」
澪が言う。
「ええ」
真琴は頷いた。
「事件としては、ちゃんと」
燈はソファに倒れ込む。
「なのに、なんでこんな気分悪いんだろうな」
「判断が間違ってるわけじゃないから」
玲は資料を閉じる。
「だから余計に、切り替えづらい」
真琴は、何も言わずに窓の外を見た。
川は穏やかで、何も変わらない。
「……木津さん」
ぽつりと、彼女は呟いた。
嘘はついていない。
判断も放棄していない。
警察として、やるべきことはやっている。
それでも。
「似てる、って言ってたよね」
誰に向けるでもない言葉だった。
その夜。
探偵社の電気を消したあとも、
真琴はしばらく立ち止まっていた。
終わった事件。
正しい処理。
誰も責められない結論。
それでも胸に残る、
名前のつかない感覚。
よはく探偵社は、今日も何かを暴いたわけではない。
ただ——
納得してしまった自分たちを、
少しだけ、信用できずにいた。